日本大百科全書(ニッポニカ) 「フッ素中毒」の意味・わかりやすい解説
フッ素中毒
ふっそちゅうどく
フッ素またはその化合物を過量に摂取することによっておこる中毒をいう。普通はフッ化物イオン(F-)の作用による無機フッ素中毒をさす。微量のフッ素は日常の環境中に広く分布し、空気、水、飲食物などから常時体内に取り入れている。フッ素は体内における微量無機元素の一つとしておもに歯のエナメル質に存在するが、環境因子によってその量が多すぎると中毒症状がみられる。腐食毒によるもので、フッ素ガスは目、鼻、のどの粘膜を強く刺激し、高濃度のガスを吸入すると肺水腫(すいしゅ)や気管支肺炎をおこす。またフッ素液が皮膚に付着すると深達性のやけどをおこす。フッ素は水と激しく反応してフッ化水素を発生し、これは水に容易に溶けてフッ化水素酸(フッ酸)となり、同じような症状を呈するフッ化水素中毒をおこす。慢性フッ素中毒は天然地下水のフッ素含有量が1ppm以上の高フッ素水地帯の住民に集団発生することがある。代表的な症状は斑(はん)状歯で、フッ化カルシウムの沈着によって歯のエナメル質の表面に灰白色あるいは黄褐色の斑点が生じる。そのほか、脛骨(けいこつ)、脊柱(せきちゅう)、骨盤などにもフッ素沈着症とよばれる骨の異常変化がおこり、骨が不規則な形に硬化する。また、貧血、カルシウム代謝障害、肝臓や腎臓(じんぞう)の障害、胃腸障害などもみられる。
なお、フッ素中毒は氷晶石、アルミニウム精錬、フッ素化学工業の産業労働者にもみられ、労働衛生上の許容濃度はアメリカでは0.1ppmであるが、日本では定められていない。
[重田定義]