許容濃度(読み)きょようのうど

改訂新版 世界大百科事典 「許容濃度」の意味・わかりやすい解説

許容濃度 (きょようのうど)

ここでは産業衛生用語として説明する。労働者の健康上,有害な影響が出ないようにするために,環境中の有害条件をそのレベル以下に保つよう定めた指標のこと。日本産業衛生学会の許容濃度等委員会は,毎年1回,化学物質の許容濃度,生物学的許容値,発癌物質と物理的環境因子の許容基準について勧告し,数値を改訂したり新しい勧告を追加している。1997年度は,化学物質として197種類,粉塵はケイ酸含有粉塵,石綿粉塵その他の有機物や無機物の粉塵を扱い,物理的環境としては,騒音,衝撃騒音,高温,全身振動を扱っている。また暫定値を示して検討中のものは手腕系振動,化学物質(4種類),発癌物質の過剰発癌生涯リスクレベルなどである。しかし,この値は,健康成人が過度の負担のない条件下で,8時間の労働を行った場合についてのもので,年齢,性,感受性,健康状態,労働条件の違いによって影響の現れ方は異なり,この値以下の場合でも影響が現れることに,委員会は注意を促している。日本では法制化されている公害防止の環境基準とは異なり,職業病予防のための許容濃度,許容基準は法定されていない。

 諸外国では,アメリカイギリスドイツロシアなどのものが有名で,各国に共通のものと独自のものがある。電離放射線については,国際放射線防護委員会ICRP)の値を各国が参考にし,日本は,これを基に法定している。この場合はとくに許容線量という。
線量限度
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「許容濃度」の意味・わかりやすい解説

許容濃度
きょようのうど

作業環境中の有害なガス、ミスト(霧状のほこり)、蒸気フューム煙霧)、粉塵(ふんじん)などの濃度が、労働者の健康ならびに作業に悪影響を及ぼさないように、一定基準以下に管理すべきであるという労働衛生学的な指標濃度のことをいう。日本産業衛生学会では150以上の有害物質について許容濃度の勧告を行っているが、その前文に、「ここにいう許容濃度とは、労働者が有害物質に連日曝露(ばくろ)される場合に、当該有害物の空気中濃度がこの数値以下であれば、ほとんどすべての労働者に悪影響がみられぬ濃度である」とし、また、「通常の労働時間で、肉体的に激しくない労働に従事する場合の1日の実労働時間についての平均濃度である」と定義している。したがって、強度の筋肉労働の場合は別に配慮しなければならない。また、当該物質の毒性について新たな知見が得られた場合、その許容濃度は再検討されうる。許容濃度を活用する最終目標は、作業者の健康の維持、向上にあるが、有害物質の耐性には個人差があり、さらに同一個人でも疲労その他、健康状態によって耐性に変化を生ずる。したがって、許容濃度を、「その値以下に作業環境濃度が抑制されるならば、すべての作業者に100%の安全を保証する値」と過大な期待をもつべきではない。

 なお、許容濃度に類似の概念として抑制濃度がある。有害物質が発散する職場では、発生源に局所排気装置を設けることが定められている。この装置の性能を判定するために、フード(装置の覆い)外側の有害物質の濃度に基準を設けたものが「抑制濃度」であり、この濃度を超えてはならないという法的な規制基準となっている。その数値には許容濃度の値が採用されているため両者は混同されやすい。

[重田定義]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「許容濃度」の意味・わかりやすい解説

許容濃度
きょようのうど
tolerance concentration

職場で労働者の健康管理をするうえに手引となる有害物の空中濃度。その濃度まで許容されるという意味ではない。有害物に連日8時間ずつ被曝する場合,その空中濃度がこの数値以下であれば,ほとんどすべての労働者に悪影響がみられないとされている。アメリカでは,労働衛生専門官会議が数多くの物質について許容濃度を定めており,日本でも,日本産業衛生学会が毎年勧告を行なっている。厚生労働省では,この両者を受けて作業場での抑制濃度としている。このほか,空気中,水中の放射性物質の量についても許容濃度が定められている。気圧,温度条件,騒音,振動については許容基準,放射線については許容線量が同じような意味で用いられる。

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栄養・生化学辞典 「許容濃度」の解説

許容濃度

 ある物質を一生涯にわたって摂取しても特に影響を起こさないと考えられる濃度.

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