翻訳|rhinitis
鼻粘膜の炎症をいうが,原因には,ウイルスや細菌による炎症だけではなく,温度や湿度の差による物理的刺激,有害なガスやちりなどの化学的刺激,花粉などアレルギー性の原因などが含まれる。また病気の起り方と治り方とから急性と慢性とに分類される。
最も多いものは風邪症候群の一部分である鼻の症状で,風邪の前ぶれ(前駆症状)であることも,風邪が鼻に残った(後遺症状)であることもある。また風邪のほかに,はしか,風疹,水痘,インフルエンザなどのウイルス性疾患,猩紅(しようこう)熱などの細菌性疾患でも急性鼻炎の症状を呈する。有害なガスを吸入したり温度や湿度が急変すると,一時的に鼻炎症状がおこる。風邪による急性鼻炎の症状は,微熱,頭痛,頭重などの全身的な症状に加えて,鼻粘膜の刺激症状(鼻内の不快感,痛み,乾燥感,かゆみ,くしゃみ,水のような鼻汁)と鼻づまり(鼻閉)である。典型的な急性鼻炎には4段階があり,乾く時期(乾燥期),鼻水のでる時期(漿液分泌期),濃い鼻汁がでる時期(膿分泌期),治る時期(治癒期)である。ただし,この全コースをたどることはむしろ少なく,軽い鼻炎なら最初の2段階で終了する。膿分泌期には急性副鼻腔炎が合併する。急性鼻炎の初期には,くしゃみ,鼻づまり,鼻水がでるが,これは鼻アレルギーの症状と同じである。鼻アレルギーは,空気中の花粉,家塵などの物質が抗原となる免疫疾患である。花粉が抗原なら季節性があり,家塵であれば年中(通年性)である。また原因となる物質が不明で,鼻アレルギーと同じ症状を示すものを血管運動性鼻炎という。これと鼻アレルギーとをまとめて鼻過敏症と呼ぶことがある。鼻風邪の症状があまり長引くときは鼻過敏症が疑われる。急性鼻炎の治療は風邪と同じで,安静にして,抗ヒスタミン剤,アスピリン,消炎酵素剤を内服する。鼻腔に使う点鼻薬はなるべく避けたほうがよい。
正確には定義することが困難な病名で,いろいろな鼻粘膜の慢性病変を一括した症候群である。慢性鼻炎には,大きく分けて三つのグループがある。最も多くみられるタイプは,粘膜がはれるタイプで,慢性肥厚性鼻炎という。肥厚が少なく,粘膜が赤くてむくみがあるだけのタイプを単純性慢性鼻炎という。まれにみるタイプは粘膜が薄くなって乾燥する萎縮性鼻炎である。肥厚性鼻炎の原因は不明であるが,急性炎症をくりかえすこと,汚染した外気,アレルギーなどの体質的問題が考えられる。また鼻中隔彎曲(わんきよく)症では,凹側の鼻粘膜はこの広いスペースを埋めるようにはれてくるが,これを代償性肥厚という。肥厚性鼻炎の第1の症状は鼻づまり(鼻閉)で,運動が多く緊張も多い日中はあまりひどくなくて,夜になってひどくなる傾向がある。左右が交代につまったり,横になると下のがわの鼻腔がつまりやすくなる。病変が進んだり鼻中隔彎曲症が合併していると鼻閉は持続性となる。鼻汁は,あまり量が多くはないが,ねばねばとした粘液性のもので,前方にでてくるタイプ(前鼻漏)と,のどに回るタイプ(後鼻漏)とがある。慢性鼻炎では,鼻汁を分泌する鼻腺が増殖するばかりでなく,繊毛の運動も悪くなるので鼻漏が増える。肥厚性鼻炎では,においを感ずる部分である嗅裂(きゆうれつ)に空気が行き届かなくなって,においがわからなくなることもある。鼻閉が高度になると鼻声(閉鼻声)となる。慢性鼻炎には慢性副鼻腔炎が合併することも多い。小児では,アデノイドが大きくなっていること(アデノイド増殖症)も慢性鼻炎の原因となる。治療としては,粘膜腫張をとる消炎酵素剤や抗ヒスタミン剤を内服して,鼻腔の処置(ネブライザーによる)を行う。治りにくいもの,鼻中隔彎曲症,アデノイドは手術によって治療する。
→副鼻腔炎
執筆者:飯沼 寿孝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
鼻粘膜の炎症で、急性鼻炎、慢性鼻炎、アレルギー性鼻炎、血管運動性鼻炎の4種類が代表的である。
[河村正三]
ウイルスなどの感染でおこる鼻かぜと単純性急性鼻炎が多い。
単純性急性鼻炎の誘因としては、副鼻腔(びくう)炎、扁桃(へんとう)炎、アデノイドなど近接する器官の炎症をはじめ、塵埃(じんあい)、煤煙(ばいえん)、たばこ、空気の汚染、極端な温度変化、過度の乾燥や湿潤などがあげられるが、これらの誘因の一つ、あるいは複数の因子によっておこる。症状は、くしゃみに始まり、鼻漏(鼻汁)過多、鼻閉(鼻づまり)、嗅覚(きゅうかく)障害で、鼻かぜと似ているが発熱などの全身症状はない。鼻粘膜は充血し、腫脹(しゅちょう)する。通常、10日以内に治癒するが、ときに細菌感染をおこして症状が悪化し、発熱する。経過が長引くと副鼻腔炎や慢性鼻炎になる。治療は、安静や加温のほか、対症的に解熱剤、鎮痛剤、鎮咳(ちんがい)剤、消炎剤を投与し、細菌感染をおこした場合は抗生物質を投与する。
[河村正三]
急性鼻炎の誘因が改善されないと慢性鼻炎に移行する。慢性鼻炎には三つの病態があり、それぞれ単純性慢性鼻炎、肥厚性鼻炎、萎縮(いしゅく)性鼻炎とよばれる。
(1)単純性慢性鼻炎 症状は肥厚性鼻炎とだいたい同じで、鼻閉、鼻漏過多、嗅覚障害、頭痛などがみられる。しかし、血管収縮剤によって鼻粘膜の腫脹が改善される点で、肥厚性鼻炎とは異なる。治療は、誘因の除去がもっとも重要で、薬剤塗布や消炎剤の投与などの保存的治療も行われる。
(2)肥厚性鼻炎 慢性鼻炎のうち、もっとも多くみられる病態で、鼻粘膜の腫脹が著しく、粘膜の肥厚した状態をいう。
(3)萎縮性鼻炎 粘膜ばかりでなく、鼻甲介の骨も萎縮する型で、その原因はまだ不明であるが、内分泌やビタミンの障害に関係があるという説もある。粘膜が萎縮して鼻道が拡大しているにもかかわらず、鼻閉が主症状であり、粘膜が乾燥して痂皮(かひ)(かさぶた)がつく。汚い痂皮の量が多くなると悪臭が強く、臭鼻症ともよばれる。治療は、鼻洗浄と感染予防のための局所的抗生物質の使用、ときには鼻道を狭くするための手術を行う。
[河村正三]
抗原抗体反応であるアレルギーに原因する鼻炎で、鼻(び)アレルギーともいい、最近増加している。
[河村正三]
症状はアレルギー性鼻炎と同じであるが、明らかな抗原が認められないもので、自律神経の障害と考えられている。外気の温度や湿度などに反応して、くしゃみ、水様性鼻漏、鼻閉の発作をおこす。治療には抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤などを用いる。
[河村正三]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…通常の風邪に伴う多量の鼻汁の流出が典型的である。鼻カタルnasal catarrhは,鼻炎rhinitisで鼻汁分泌が著しい状態をいう。秋季カタルautumnal catarrhは枯草熱hay feverのことで,喘息(ぜんそく)や気管支炎を伴う眼球粘膜,上気道粘膜の炎症で,花粉などが原因となるアレルギー性炎である(花粉症)。…
…アレルギー性鼻炎ともいう。遺伝子病の一種。…
※「鼻炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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