日本大百科全書(ニッポニカ) 「斑状歯」の意味・わかりやすい解説
斑状歯
はんじょうし
フッ素の過剰摂取によって引き起こされるエナメル質形成不全症。1916年、アメリカのロッキー山脈地方における地方病として初めて報告された。その後の調査によって世界各国でも発見され、わが国でも各地にその発生がみられた。当初は原因不明であったが、1931年になって、飲料水中のフッ化物に起因するものであることが確認された。斑状歯の外観は、エナメル質の表面に白濁した不透明の斑点や縞(しま)模様が現れたり、歯面全体が白濁したりする。重症のものは、褐色に着色したり、実質欠損(エナメル質が欠けている状態)を伴うことがある。
[市丸展子]
斑状歯の分類法
斑状歯においては外観の変化が複雑多岐にわたり、数種の分類法があるが、一般的には世界保健機関(WHO)のグローバルスタンダード(国際標準)に基づいて、1942年にアメリカ公衆衛生局のトレンドリー・ディーンH. Trendly Deanが分類した指数の評価基準によって分類・統計処理が行われている。
ディーンの指数は、口腔(こうくう)の中でもっとも症状の強い2本の歯の所見に基づいて記録した、0、1~5、8、9のスコアがある。コード0(ゼロ)は正常、コード1は疑問、コード8はクラウン(歯の実質欠損を補うため、金属、セラミックス、硬質レジンなどでつくられた人工物)などで被覆されているため除外、コード9は記録なし、となっているので、コード2~5が斑状歯の分類となり、スコアが高くなるほど重症となる。すなわち、
(1)コード2(非常に軽度) 小さな、不透明の、白紙様の領域が歯全体に不規則に散らばった状態。しかし、その面積は唇側歯面の25%未満。
(2)コード3(軽度) エナメル質の不透明白斑がコード2よりも広範囲にみられるが、その範囲は歯面の50%未満。
(3)コード4(中等度) エナメル質表面は明らかに実質欠損を伴っており、褐色の着色がしばしば醜い外観を呈する。
(4)コード5(重度) エナメル質表面がひどく影響を受けており、歯冠(歯ぐきから出ている部分)形態が変わるほど減形成が著明である。陥凹(かんおう)またはすり減った領域があり、褐色の着色が広範囲にみられる。歯はしばしば腐食したようにみえる。
[市丸展子]
フッ素とむし歯
斑状歯は主として永久歯にみられるものであるが、フッ素が高濃度の地域では、乳臼歯(きゅうし)にも軽度なものがみられ、歯の萌出(ほうしゅつ)が遅れる場合もある。なお、1930年代から、斑状歯が多発する地域に、う蝕(しょく)(むし歯)の少ないことが注目され始め、その後の調査や動物実験で、フッ素がう蝕防止と関連をもつことが確認された。その結果、1940年から歯面へのフッ素塗布が行われるようになり、また45年には、アメリカのミシガン州グランドラピッズ市において飲料水へのフッ素添加が行われたのを皮切りに、世界のさまざまな地域において、飲料水へのフッ素添加が行われている。日本では、飲料水へのフッ素添加については賛否両論がある。1955年スイスでフッ素添加の食塩が販売されたのをはじめとして、ガムなど一部の食品にフッ素が添加されたものが、日本を含め世界各国で市販されている。また、1947年(昭和22)に日本においてもフッ素を添加した歯みがき剤が市販され、その後は多種のフッ素入り歯みがき剤が市販されている。
[市丸展子]
『島田義弘編、岡田昭五郎他著『予防歯科学』(1983・医歯薬出版)』▽『岡田昭五郎・吉田茂・境脩編『新予防歯科学』(1993・医歯薬出版)』▽『日本口腔衛生学会・フッ化物応用研究委員会編『フッ化物応用と健康――う蝕予防効果と安全性』(1998・口腔保健協会)』