プルシャ
puruṣa
〈男〉〈人間〉〈家来〉などを意味するサンスクリット語であるが,次のようにインド哲学上の重要な概念として用いられる。《リグ・ベーダ》の一節では宇宙の根源(原人)とされ,神々がプルシャを供物として祭式を行ったとき,その口からバラモンが,両腕からクシャトリヤが,両腿からバイシャが,両足からシュードラが,意から月が,眼から太陽が,へそから空界が,頭から天界が,両脚から地界が生まれたという。やがて,いくつかのウパニシャッド文献を経て,サーンキヤ学派の文献に至ると,プルシャは,物質原理とはまったく隔絶した精神原理(神我)であると考えられるようになった。このプルシャは,知そのものであるが,無知が介在して物質原理に関心をもったとき,物質原理が開展して,輪廻の苦しみの世界が現れる。両原理を明らかに区別する知識を得たとき,世界は収束し,プルシャは物質原理に無関心となる。この状態を,独存ないし解脱という。
執筆者:宮元 啓一
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世界大百科事典(旧版)内のプルシャの言及
【サーンキヤ学派】より
…その出発点は人間存在を苦と見るところにあり,この哲学説の目的は,人間存在をとりまく苦からいかにして脱却するかにある。精神的原理は[プルシャ]puruṣa(漢訳で〈神我〉)と呼ばれ,純粋精神であって,知を本質とし,個我であり,原子の大きさをもち,無数に存在する。それは永遠の実体であって本来的に輪廻や解脱とかかわりない。…
【インド神話】より
…祈禱主神ブラフマナスパティ(ブリハスパティ)とかビシュバカルマン(毘首羯磨)を万物の創造者とする説や,創造神が黄金の胎児(ヒラニヤ・ガルバHiraṇya‐garbha)として太初の原水の中にはらまれて出現したとする説がある。また,神々が万有そのものである原人プルシャPuruṣaを犠牲獣として祭祀を実行し,もろもろの世界を形成したという,諸民族の間に見られる巨人解体神話と共通な説もある。《リグ・ベーダ》(10:129)にある〈無に非ず有に非ざるもの〉を説く賛歌において,宇宙創造説は深遠な哲学的思索の色彩を帯びる。…
【解脱】より
…その真実の知を仏教では悟り(ボーディbodhi,菩提(ぼだい),覚(かく))といい,それを得た人をブッダbuddha(仏陀,覚者)といい,悟りの境地をニルバーナnirvāṇa(涅槃(ねはん))という。 仏教以降に出た諸派の解脱観については,たとえばサーンキヤ学派,ヨーガ学派は,自己の本体である[プルシャ]puruṣa(純粋精神)を,身体(ふつうの意味での意識も含む)や外界など物質的なものから完全に区別して知ること(区別知,ビベーカviveka)によって,純粋精神が物質的なものから完全に孤立すること(独存(どくそん),カイバルヤkaivalya)が解脱であるとし,ベーダーンタ学派は,自己の本体である[アートマン]ātman(我(が))が実は宇宙の本体である[ブラフマン]brahman(梵)と同一であると明らかに知ること(〈明〉)によって解脱が得られるとするが,いずれにしても,真実の知によって解脱が得られるとする点では,基本的に上述の仏教の考え方と軌を一にする。[苦][悟り]【宮元 啓一】。…
【サーンキヤ学派】より
…その出発点は人間存在を苦と見るところにあり,この哲学説の目的は,人間存在をとりまく苦からいかにして脱却するかにある。精神的原理は[プルシャ]puruṣa(漢訳で〈神我〉)と呼ばれ,純粋精神であって,知を本質とし,個我であり,原子の大きさをもち,無数に存在する。それは永遠の実体であって本来的に輪廻や解脱とかかわりない。…
【髑髏】より
… 外的な自然と人体との間に照応関係を見る考えによって,頭または頭蓋骨は天や宇宙に擬せられている。古代インドの《リグ・ベーダ》の〈プルシャ(原人)の歌〉に,プルシャの頭から天界が形成されたとある。北欧神話では,巨人ユミルの頭蓋骨から天がつくられたとする(《グリームニルの歌》)。…
【二元論】より
…【茅野 良男】
[インドの二元論]
インドでは,二元論は[サーンキヤ学派]によって代表される。それによれば,世界は本来,純粋知,精神原理であるプルシャと,無知性の物質原理である自性(プラクリティ)という,相互にまったく無関係の二つの原理よりなるとされる。ところが,ここに無知が介在すると,プルシャは自性に関心を持つようになる。…
【目∥眼】より
…伊弉諾(いざなき)尊が左眼を洗って天照大神を,右眼を洗って月読(つくよみ)尊を生んだのと似ている。一方,古代インドの《リグ・ベーダ》の一つ,〈プルシャ(原人)の歌〉によれば,太陽はプルシャの目から生じ,月は彼の意から生じたという。また《アタルバ・ベーダ》中の〈ブラーティアの歌〉には,ブラーティアの右眼が太陽,左眼が月と歌われている。…
※「プルシャ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」