日本大百科全書(ニッポニカ) 「クシャトリヤ」の意味・わかりやすい解説
クシャトリヤ
くしゃとりや
Katriya
古代インドで成立した四つの社会階層(バルナ)の一つで、王族・武人階層。
バラモンが祭式を執行するのに対して、クシャトリヤは統治、支配を分担する世俗的権力者とされる。『マヌ法典』では、社会が王を欠いたために混乱に陥ったとき、「主」が王を創造したとし、王の第一の義務として人民の保護を強調している。このような、精神的権威と世俗的権力の早期の段階における分離、分担をインド古代国家・社会の特徴とみなす学説もある(フランスの文化人類学者ルイ・デュモン)。しかし、実際には、古代インドの諸国家の王族にはクシャトリヤとはみなされていない家系も多く、クシャトリヤがどこまで閉鎖的な身分階層であったのか、かならずしも明確ではない。王族がクシャトリヤであることを強調するようになるのは、むしろ、8、9世紀以降の中世になってからで、このころに形成され始めたラージプート・カースト諸集団が北インド各地に政権を樹立すると、古代のクシャトリヤにさかのぼる家系図をつくるようになった。インド中世において、このラージプートだけは広くクシャトリヤと認められたが、他の地方の同様な武人的カーストでクシャトリヤと認められたカーストは存在しない。中世には、クシャトリヤのいない地方の方が多かったのである。
[小谷汪之]
『山崎元一著『古代インドの王権と宗教――王とバラモン』(1994・刀水書房)』▽『ルイ・デュモン著、田中雅一・渡辺公三訳『ホモ・ヒエラルキクス――カースト体系とその意味』(2001・みすず書房)』