日本大百科全書(ニッポニカ) 「プレシジョンメディシン」の意味・わかりやすい解説
プレシジョンメディシン
ぷれしじょんめでぃしん
precision medicine
ゲノム(遺伝情報)解析によって個人個人の体質を明らかにすることで、その人にとってより効果的で副作用などが低減された治療が実施される医療。個人の全ゲノム解析結果の利用を前提とした、新しい医療の概念である。
2015年1月20日、アメリカ大統領オバマ(当時)が一般教書演説のなかで提唱した医療概念であり、日本語では「精密医療」「高精度医療」などと訳される。
個人個人に最適な予防対策や医療を提供するという意味でパーソナライズドメディシンpersonalized medicine(個別化医療、オーダーメイド医療)の延長線上にある概念と解釈することもできるが、個別化医療が個々の患者の遺伝情報や環境因子などの解析によって得られる情報を、個々に応じた創薬や治療に利用する手法であるのに対して、プレシジョンメディシンは、遺伝情報や生活環境、ライフスタイルの違いから「特定の疾患にかかりやすい集団(サブポピュレーションsubpopulation)」を分類し、個別のリスクや特性を同定し、疾患予防、治療法を確立、提供していくことになる。個人単位の遺伝情報の解析が必須(ひっす)となる個別化医療を実用化するためには莫大(ばくだい)な時間と医療経済的な負担を要するが、プレシジョンメディシンは遺伝子解析技術の進歩により膨大に蓄積されたデータを活用し、ある特定の集団を層別化(グループ化)し、集団ごとの治療法や予防法を提供するものであり、個別化医療に比べて費用対効果に優れることが期待されている。
遺伝子異常との関係が明らかで、かつ患者数の多いがん領域においては、遺伝情報に基づく医療がすでに一部実用化されている。具体的には非小細胞肺がんのEGFR(epidermal growth factor receptor、上皮成長因子受容体)遺伝子変異や、EML4-ALK融合遺伝子の検出などが該当し、治療効果が望める患者に対して適した分子標的治療薬が使用されるようになっている。また、肺がんや消化器がん領域においては、全国200以上の医療機関と10社以上の製薬会社による、日本初の産学連携がんゲノムスクリーニングプロジェクト「SCRUM-Japan(スクラムジャパン)」が発足しており(2015年)、新たなバイオマーカーとなる遺伝子異常の解析が進められているほか、希少がんを対象とする取組みもみられるようになってきている。
[渡邊清高 2020年3月18日]