改訂新版 世界大百科事典 の解説
プロジェクトエンジニアリング
project engineering
略称PE。プロジェクトエンジニアリングという概念がいつどこで生まれたか定かではない。レーズH.F.Raseらが,化学プラントの建設で(そしておそらくアメリカで)生まれた,としているが,正しいであろう。つまりプラントが巨大化し,複雑化し,高度化し,その安全性,信頼性,経済性に対し最高の技術が要求されるに至り,それらを支える各種専門技術を組み合わせ統合する技術と,全体を統一された思想と目標のもとに管理する技術がますます必要となり,これらの技術をPEと呼ぶようになったようである。最近ではこのようなプラントのみならず,資源,エネルギー,食糧等の開発計画とか,地域社会開発のような大型プロジェクトにも,その手法が適用されるようになってきている。ただし,宇宙開発や,第2パナマ運河のような超大型プロジェクトは,手法的には同様でありながら,最近はマクロエンジニアリングと呼んでいる。近年の傾向として,これらプロジェクトの環境や地域社会に与えるインパクトの重要性が認識され,環境アセスメント(略称EA)やテクノロジー・アセスメント(略称TA)が,とくにPEの初期段階での重要な技術構成要素となってきている。
PEの内容も少しずつ変化しており,(1)事前調査計画(フィジビリティ・スタディ。略称FS),必要によってはパイロット・テスト,(2)基本設計,(3)詳細設計,(4)所要機器材料調達,(5)輸送,(6)現地施工,(7)試運転・試用,(8)引渡し・技術移転,ならびに以上各段階における(9)対境調整,(10)技術・情報・品質・工程・コスト(マネーとマンパワー)等に関する管理技術等すべてを包含する広い意味でのPEに対し,各種専門技術を有機的に組み合わせて統括する上記の(1)~(8)をPEとし,統括管理の(9)(10)をプロジェクトマネジメント(略称PM)として区別する考え方も最近有力である。
プロジェクトはそれを取り巻く環境が時流とともに多様化し,単なる技術のみでなく,政治,経済の影響を強く受けるようになってきている。すなわち市場の拡大・国際化,国際調達,契約形態の多様化,国際的分業・協力,金融面の国際化,為替・インフレ・戦争リスクへの対処等対応すべき局面が多岐にわたり,高度の情報収集・分析・判断力と実行力が要求されるようになってきている。
PEの管理手法はプロジェクト全体のシステム化に即して計画作成,データ収集,実績との対比,分析・評価修正を含むコンピューターによるトータル化が進んでいる(PM情報システム)。工程管理なども古典的なガントチャートからPERT(パート)やCPMへ移行しているし,古くからあるWBS(work breakdown structureの略)法も取り入れられつつある。またコンピューターによる設計手法(CAD)とか,モジュール化による工法,ロボット溶接など新しい設計・工事手法も導入されているが,今後さらにこの方面の技術利用も積極化しよう。
次に組織であるが,通常企業等では機能別の組織がとられるのに対し,PEの場合はその目的達成のためにタスクフォース的独立組織をつくることがある。しかし多くの場合,機能別の既存組織を生かし,同時に配員の柔軟性を確保するため,アサインassign制によるマトリックス型組織をとることが多く,とくに特殊なプロジェクトを除いて一般的である。
PMの業務を行う者およびチームの長を,それぞれプロジェクトエンジニア,プロジェクトマネージャーと呼んでいる。出身の専門によっても少し異なるが,関連する各種工学の諸問題を理解することはもちろん,金融,契約,法律,企業管理をよく知り,そして最もたいせつなことは円満にして不屈の精神力,豊かな計画力と発想力,国際感覚に裏づけられた,決断力・統率力ある人格が必要であるとされている。そしてこのような人材の育成がPE成功の鍵をにぎっているといわれている。
プロジェクトはこれからもますます難しくて大型のものが出てくるものと想定されており,これらを専門の業務として行う企業(エンジニアリング企業)も増えてきている。また,そこまでいかなくとも社内にそのような事業本部を設けている企業も多い。
執筆者:此木 恵三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報