ボーイング(読み)ぼーいんぐ(英語表記)The Boeing Co.

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ボーイング」の意味・わかりやすい解説

ボーイング(Boeing Co.)
ぼーいんぐ
The Boeing Co.

アメリカの航空宇宙工業会社。民間ジェット航空機のほか軍用機ミサイル、宇宙機器、ヘリコプターなどの製造を行う。世界最大規模の民間航空機製造メーカーであるとともに、ロッキード・マーチン、レイセオンと並ぶアメリカ有数の軍需企業。本社はワシントン州シアトルにあったが、2001年9月イリノイ州シカゴに移転。

[萩原伸次郎]

歴史

ボーイング社の前身は、飛行機製作者のウィリアム・ボーイングが1916年に創設したパシフィック・エアロ・プロダクツPacific Aero Products Co.である。ボーイングは当時、海軍技師ジョージ・ウェスタベルトGeorge Conrad Westerveltとの共同開発による水上機B&Wを製造していた。翌1917年、社名をボーイング・エアプレーンBoeing Airplane Co.に改称。1923年に小型輸送機のモデル40を開発し、1925年モデル40を改良したモデル40Aの製造を開始した。1927年、同型機がアメリカ郵政公社によるサンフランシスコ―シカゴ間の郵便配達に採用されたことにより、飛行機製造とは別に航空輸送業のボーイング・エア・トランスポートBoeing Air Transport(略称BAT)が組織された。1929年、航空機製造と航空輸送業を統括したボーイング・エアプレーン・アンド・トランスポートBoeing Airplane and Transport Corp.は、ユナイテッド・エアクラフト・アンド・トランスポーテーションUnited Aircraft and Transportation Corp.に社名変更した。

 1934年、ユナイテッド・エアクラフト・アンド・トランスポーテーションは反トラスト法によって3分割された。そのうち、アメリカ西部地域での航空機製造を行う会社として、改めて設立されたのが現ボーイング社である。輸送部門はユナイテッド航空United Airlines、アメリカ東部での航空機製造はユナイテッド・エアクラフトUnited Aircraftにそれぞれ分離独立した。ボーイングの製造工場がワシントン州、オレゴン州など西部太平洋岸に集中しているのは、設立時のこうした経緯のためである(最大工場はワシントン州シアトル)。

 第二次世界大戦中、ボーイングは「空の要塞(ようさい)」とよばれたB-17爆撃機の製造を開始。1942年には広島における世界初の原子爆弾投下(1945)の際に使用されたB-29爆撃機の製造を開始した。1952年には、第二次世界大戦後のアメリカ軍の主力爆撃機となったB-52爆撃機を開発した。

 1950年代初頭より同社は民間ジェット航空機の開発にも着手し、ジェット旅客機の第一世代にあたるボーイング707は、1958年にジェット旅客機として初めて商業路線に就航した。1970年、ジャンボ機ボーイング747が運航を開始し、民間大型ジェット輸送機時代の幕開けとなった。1960年代以降の同社は、ヘリコプター、大陸間弾道弾、ALCMなどの巡航ミサイルといった兵器類、F-22戦闘機(ロッキード・マーチンとの共同開発)などの軍用機や、宇宙機器、コンピュータ部門などに事業を拡大し、NASA(アメリカ航空宇宙局)最大の納入業者の一つとなっている。

[萩原伸次郎]

合併とその後の事業展開

ボーイングは民間航空機が主力製品の世界的企業であるが、そのほかに防衛宇宙部門、コンピュータ部門を含めた3部門構成で運営されてきた。1996年12月、冷戦終結後の軍事予算の削減によって苦境に立たされたロックウェル・インターナショナルRockwell International Corp.の航空部門と防衛部門を買収して、ボーイング・ノース・アメリカンBoeing North American, Inc.を設立した。さらに1997年、アメリカ有数の航空機製造・軍需企業のマクダネル・ダグラスとの巨大合併がアメリカ連邦取引委員会、ヨーロッパ委員会に承認され、同年8月新体制で再出発した。これらの買収・合併によって、ボーイングは民間航空機メーカーのナンバー・ワンの地位を保つと同時に、アメリカの防衛産業においても強力な地位を固めた。

 合併後の事業体制は、民間航空機部門のほか、軍用飛行システム、戦略ミサイル、ロケット、エンジン、航空情報システムを設計・製造する情報・宇宙・防衛システム部門(2002年に統合防衛システム部門となる)、コンピュータ、通信、その他のサポートサービスを行うサービス部門の3部門である。

[萩原伸次郎]

その後の動き

主要事業部門に変化はないが、社内で技術開発をサポートするテクノロジー部門と金融サービス部門が加わった。2009年時点で、90か国以上に製品を提供。日本にも民間機ばかりでなく早期警戒管制機(AWACS(エーワックス))ボーイングE-767を4機輸出している。従業員数はアメリカ国内と世界70か国に16万人以上、2008年の売上高は609億2500万ドル、純利益27億0200万ドル。売上高構成比率は民間航空機部門46.4%、統合防衛システム部門52.6%、金融サービス部門1%。

[編集部]


ボーイング(William Edward Boeing)
ぼーいんぐ
William Edward Boeing
(1881―1956)

アメリカの飛行機製作者。ドイツ人移民の子に生まれる。エール大学工学部を卒業。初め木材業に従事したが1914年に飛行機製作を思い立ち、1916年パシフィック・エアロ・プロダクツ(1917年ボーイング・エアプレーンと改称)を設立し社長となる。第一次世界大戦後、アメリカの航空拡張政策にのって軍用機から郵便機などの設計製作にも手を広げ、1933年のボーイング247は近代輸送機の原形とされる。第二次世界大戦中は爆撃機B-17とB-29を生産し、日本やドイツへの爆撃に用いられた。その後ボーイング社は747型(ジャンボ機)や、757、767各型の大型旅客機を生産し、アメリカ最大の民間航空機製造メーカーとなったばかりでなく、防衛、宇宙開発に携わるなどアメリカを代表する巨大企業となった。

[佐貫亦男]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ボーイング」の意味・わかりやすい解説

ボーイング
Boeing Company.

アメリカ合衆国の航空機メーカー。前身は 1916年ウィリアム・ボーイングによって設立されたパシフィック・アエロ・プロダクツで,翌 1917年ボーイング・エアプレーンと改称,海軍の飛行艇などを製造した。その後 1920~30年代には練習機,観測機,雷撃機,爆撃機など軍用機の大量受注によって発展,B-17,B-29などの大型爆撃機の開発と生産で航空機メーカーとして大きく成長した。第2次世界大戦後はB-47,B-52などの戦略爆撃機の開発に成功,1950年代半ばから民間輸送機の分野にも進出した。初めてのジェット旅客機 707の成功によって確固たる地位を築き,720,727,737,747,757,767,777,787などを開発して民間旅客機の市場覇権を握った。事業内容は,民間機,軍用機のほか,ミサイル,ミサイル発射制御装置,車両などの製造。 1997年アメリカの航空機メーカー,マクドネル・ダグラスを吸収,戦闘機の分野でもF-15イーグル,F/A-18ホーネット,AV-8Bハリアーなどで地歩を築くこととなった。また軍用ヘリコプタの分野では AH-64アパッチ,CH-47チヌークを生産。ベル・ヘリコプタと共同開発したティルトロータ機V-22オスプレイの生産にもあたっている。 (→ボーイング 707 , ボーイング 747 , ボーイングB-17 , ボーイングB-29 )

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

マイナ保険証

マイナンバーカードを健康保険証として利用できるようにしたもの。マイナポータルなどで利用登録が必要。令和3年(2021)10月から本格運用開始。マイナンバー保険証。マイナンバーカード健康保険証。...

マイナ保険証の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android