垂直離着陸機(読み)スイチョクリチャクリクキ

デジタル大辞泉 「垂直離着陸機」の意味・読み・例文・類語

すいちょく‐りちゃくりくき【垂直離着陸機】

航空機で、離着陸の際に滑走することなく、ほぼ垂直に上昇または降下する能力をもつもの。ふつう、ヘリコプターを含めない。VTOL(ブイトール)。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「垂直離着陸機」の意味・読み・例文・類語

すいちょく‐りちゃくりくき【垂直離着陸機】

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] vertical take-off and landing aircraft訳語 ) 地表面と垂直に離着陸でき、水平飛行中は固定翼によって揚力を得る型式飛行機。離陸時の推力を得る方法としては、ジェット推進装置からの地上への噴射などがある。ブイトール。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「垂直離着陸機」の意味・わかりやすい解説

垂直離着陸機 (すいちょくりちゃくりくき)

滑走しないでほぼ垂直に離着陸できる航空機。vertical take-off and landing aircraftを略してVTOL(ブイトール)とも呼ばれる。ヘリコプターも広い意味ではVTOLの一種であるが,一般にはこれを除外して,固定翼の飛行機に垂直離着陸能力をもたせたものをVTOLとすることが多い。空中ではふつうの飛行機と同じに高速で飛び,離着陸にはヘリコプターのように滑走路がいらないことがVTOLのねらいである。しかし垂直に離着陸するには機の重量をあまり大きくできないため,滑走離着陸するふつうの飛行機に比べると積載量航続距離が劣るものにならざるをえない。このため,現在では滑走路が使える場合は短い距離の滑走を行うことにより,大重量での離着陸もできるようにしたV/STOL(ブイエストール)(vertical/short take-off and landing aircraftの略)が垂直離着陸機の主流となっている。なお,V/STOLは垂直離着陸機と短距離離着陸機(STOL)の総称として使われることもある。

飛行機の翼は,機が前進して翼に気流が当たらないと揚力を発生できない。そこで地上滑走なしで離着陸して飛行するには,翼に十分揚力が発生する前進速度になるまでの間(遷移飛行という),翼の揚力に代わる浮揚力が必要である。これを発生させる方法はいろいろあるが,おもなものは,(1)離着陸用にヘリコプターのような回転翼を備える,(2)推進用のプロペラかファンを離着陸時は垂直方向に向ける,(3)離着陸用に垂直方向を向いたジェットエンジンかファンを備える,(4)推進用のジェットエンジンの排気を離着陸時は下へ向けるなどである。どの方法でも発生する浮揚力が機の重量を上回らなければ垂直離着陸はできないが,おおむね後者の方法ほど機構的複雑さは少なくてすむかわりに,離着陸や遷移飛行中の燃料消費が多くなる。また前進速度ゼロや低速では尾翼や舵も効かないので,離着陸や遷移飛行中は,エンジンから導いた圧縮空気を機の前後端,翼端から直角に噴き出して操縦し,それを自動的に制御して安定を保つような方法が使われる。

1950年代から世界各国で各種の垂直離着陸機が作られ試験飛行され始めた。これは垂直離着陸機に必要な軽くて強力なエンジンが,ジェットエンジンなどガスタービンの進歩でこのころから得られるようになったためである。69年には最初の実用機としてイギリスのホーカーシドレー(現在のBAe)ハリアー戦闘攻撃機の運用が開始された。しかし現在まで実用化されたものは,このハリアーとそれをアメリカで改良生産したマクダネル・ダグラスAV8B,ソ連(現ロシア)のヤコブレフYak36だけで,軍用機の一部に限られている。滑走路不要という大きな特長がありながら普及しないのは,一般機に比べ積載量や航続距離が小さいこと,離着陸や遷移飛行中の安定操縦性を保つのがむずかしいこと,民間機としては不経済で騒音も大きいことなどのためである。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「垂直離着陸機」の意味・わかりやすい解説

垂直離着陸機
すいちょくりちゃくりくき
vertical take off and landing aircraft; VTOL

垂直離着陸の可能な航空機。 VTOL機ともいう。実用的な垂直離着陸機は,ほとんどがヘリコプタである。それ以外の垂直離着陸機が真剣に考えられるようになったのは 1950年代からで,その頃試作された実験機には,翼とプロペラと回転翼 (ロータ) をもつコンパウンド機,翼とプロペラが垂直から水平に変向するティルトウィング機,ジェットエンジンをロケットのように立てて垂直に離昇するテールシッターなどがある。そのなかからジェットエンジンの噴射を変向するBAEハリアーが実用化された。さらにアメリカ3軍とイギリス海軍の新しい共用戦闘攻撃機 JSF;Joint Strike Fighterは,ジェットエンジンの推力変向とリフトファンによって垂直に離陸し,超音速で飛ぶことができる。またロータを垂直から水平まで変向するティルトロータ機も実用段階に入った。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「垂直離着陸機」の意味・わかりやすい解説

垂直離着陸機【すいちょくりちゃくりくき】

VTOL(ブイトール)(vertical take-off and landingの略)とも。滑走を行わずほぼ垂直に離着陸できる航空機。ヘリコプターを除いた固定翼機についていうのが一般。離着陸用に垂直方向の推力を与えるジェットエンジンまたは回転翼を別に備えるものと,水平飛行用のエンジンの推力の方向を90°変向して垂直飛行用と兼用させるものに大別される。滑走路を必要としないという利点はあるが,一般の飛行機に比べ積載量や航続距離が小さく,操縦も複雑になる。軍用機で実用され,旅客機も開発されている。
→関連項目V/STOL

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「垂直離着陸機」の意味・わかりやすい解説

垂直離着陸機
すいちょくりちゃくりくき

VTOL機

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の垂直離着陸機の言及

【軍用機】より

…米軍のUTTS(多用途戦術輸送機,utility tactical transport aircraft system)のシコルスキーUH60A,LAMPS(多用途軽ヘリコプター,light airborne multi‐purpose system)のシコルスキーSH60B,AAH(新型攻撃ヘリコプター,advanced attack helicopter)のヒューズAH64A等がこれであり,83‐84年に配備が開始された。垂直離着陸機については種々の形態のものの研究が熱心に続けられ,成果も挙がりつつあるが,実用となっているのはイギリスのハリアー型とソ連のヤコブレフYaK36MPのみで,その他の型は実用になるとしても今後かなりの時間が必要と見られている。 次世代の戦闘機等に適用が期待されている技術上の重要テーマで,特に注目されるのは,CCV,ステルス(隠密飛行機,stealth aircraft)およびスーパークルーザー(超音速侵航機,supercruiser)の思想であろう。…

【航空機】より

… ヘリコプターのこのような飛行特性と,飛行機の高速で遠距離を飛ぶことのできる特性とを合わせたハイブリッド航空機が考えられるのは当然で,低速飛行における浮揚のための回転翼を高速飛行では軸を水平に倒してプロペラとして使い,重量は高速飛行では翼の揚力に頼るという転換機も登場している。このほか,回転翼を利用しないで垂直離着陸特性を与えた垂直離着陸機には,離着陸時にジェットエンジンを立てた状態にして上向きの推力を作り出すもの,エンジンは水平のままであるが,排出ノズルの弁を作動して噴出ガスを下方に向けて同じ効果を出すものなどがある。またプロペラ後流やジェットエンジンの噴出ガスを主翼のフラップなどを利用して下方に曲げ,離着陸の際の滑走距離を短くした短距離離着陸機も実用化されている。…

【攻撃機】より

…この種の攻撃機は,この弱い上面に対し上空の有利な位置から強力な攻撃を加えることができるので,機甲部隊に対する最も有効な攻撃手段となっている。垂直離着陸機(VTOL)は艦上,陸上いずれの型の攻撃機にとっても有利な特性を数多く有している。航続力が小さいなどの欠点はしだいに改善されているので,将来VTOL攻撃機が盛んに使用される時代の来ることが予想される。…

※「垂直離着陸機」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android