日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘルツの実験」の意味・わかりやすい解説
ヘルツの実験
へるつのじっけん
Hertz's experiment
1886年から約3年間にドイツの物理学者H・R・ヘルツが電磁波の存在を確認し、その性質を明らかにした実験。マクスウェルの電磁理論では、電気・磁気的力はその媒質と想定されたエーテル中を時間をかけて伝わるので、これを確証するには、電磁気的乱れをつくり、それが空間中をどう広がるかを調べる必要がある。ヘルツは のような装置(ヘルツ発振器)をつくった(亜鉛球は蓄電器の役をする。D、D'は金属棒先の小金属球)。スイッチを断続的に入れて切ることにより両極D、D'に高圧を加え、この火花間隙(かんげき)に火花を飛ばすと、絶縁されすこし離れて置かれたヘルツ共振器( 、簡単なLC回路)の小球間に電圧が生じ、ついにはその間隙に火花放電が生じ、電波が到達したことが検知される。この実験でエーテルの存在が確証されたと当時は考えられたが、この実験を基に遠隔作用論が否定され、電磁場概念の確立を含む古典電磁理論の完成へ向かうことになった。さらにヘルツは、電磁波の直進、定常波の形成、反射、屈折、偏り、速さを調べて、光の性質との一致を確認した。たとえば、金属筒状の放物面鏡の焦点線( の点Aを通る直線)上に発振器の火花間隙を置き、このとき生じた電波の散逸が防がれることを示し、また からわかるように反射の法則を確認した。こうして自分の調べた「電気力の放射線」を、非常に波長の長い光線とよんでよいと結論した。
[藤井寛治]