ベジタリアン(読み)べじたりあん(英語表記)vegetarian

翻訳|vegetarian

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベジタリアン」の意味・わかりやすい解説

ベジタリアン
べじたりあん
vegetarian

動物性食品を避け、野菜、果物いも類、豆類などの植物性食品を中心にとる人々のこと。菜食主義者と訳されるが、ベジタリアンということばは、単に「野菜を食べる人、野菜を信奉する人」の意味にとどまらない。英語のvegetarianの語源であるラテン語のvegetusには「活発な、力強い」という意味があり、それが英語のvegetalに「生長する」という意味を与えている。つまり、ベジタリアンとは「健康で生き生きとして力強い人」のことである。1847年にイギリスで発足したイギリス・ベジタリアン協会が使い始めてから一般化した。ベジタリアンという語ができる前には、肉食をしない人々はピタゴラス派とよばれていた。紀元前6世紀に哲学者ピタゴラスが、神祭における動物供犠への批判から菜食を唱え、肉食を減らすことが自然で健康的な食事法だと説いた。そのためピタゴラスがベジタリアンの祖とされている。それがソクラテスプラトンに引き継がれ、18世紀以降、ルソートルストイといった作家、思想家が平和主義的観点から菜食主義を唱えた。実際にはベジタリアンにはさまざまなタイプがあり、どの程度動物性食品を避けるかによって、いくつかに分けることができる。

(1)ピュア・ベジタリアン あらゆる動物性食品を厳格に避けるベジタリアンで、ビーガンともよばれる。肉類鶏肉、魚貝類はもちろんのこと、卵や牛乳チーズといった乳製品などもいっさいとらない。蜂蜜(はちみつ)さえ摂取しない人もいる。

(2)ラクト・ベジタリアン 肉類、鶏肉、魚貝類、卵を避けるが、牛乳、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品をとるベジタリアンのことで、ラクトは乳製品を意味する。

(3)オボ・ベジタリアン 肉類、鶏肉、魚貝類、乳製品を避けるが、卵と卵製品をとるベジタリアンのことで、オボは卵を意味する。

(4)ラクト・オボ・ベジタリアン 肉類、鶏肉、魚貝類を避けるが、乳製品や卵を摂取するベジタリアン。

(5)フィッシュ・ベジタリアン 肉類、鶏肉、乳製品、卵を避けるが、魚貝類をとるベジタリアンのことで、養殖された魚貝類はできるだけ避ける傾向がある。

 そのほかベジタリアンではあるが、例外の食品として鶏肉、七面鳥などはとる人々もいる。その場合、養鶏などでケージに入れて食用に飼育されたものより、自然に近い環境で放し飼いにされた鶏の肉を好む傾向にある。また、特定の日や期間のみ植物性食品だけをとる場合もある。

 菜食は宗教、思想上の信条に基づいて信奉されることが多いが、肥満や栄養の偏り、虚血性心疾患や高血圧、糖尿病といった生活習慣病や、ある種の癌(がん)にかかるリスクを減らすためなど、美容と健康のためにベジタリアンになる人も多い。さらにエコロジーに関係した問題意識の高まりや、畜産業における動物の扱い方、穀物飼料の大量生産による森林の伐採や土壌の老化など地球環境への悪影響も、菜食を後押しする遠因となっているとの見方もある。菜食のメリットを享受するためには、医学的、栄養学的に適切な準備をすることも忘れてはならない。

[田中伶子]

『鶴田静著『ベジタリアンの文化誌』(1988・晶文社)』『蒲原聖可著『ベジタリアンの健康学』(1999・丸善)』

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