食物として野菜、果物、いも類、豆類など植物性食品を多く食べること。実際に植物性食品のみしか食べない菜食は少なく、動物の肉類ないし魚肉類は避けるが卵は許容される食習慣、また卵も禁止されているが牛乳、チーズなどの乳製品はかまわない食習慣も通常、菜食とよばれる。さらに特定の日や期間、時間だけ植物性食品をとる場合もある。サルのなかにはゴリラなど菜食のものもあるが、人類は進化の初期の段階で肉食を行っていたし、また旧石器時代には採集狩猟に依存していたことが明らかであるので、菜食という習慣はむしろ人類史のなかでは比較的新しく、農耕文化の発生を経てのちに発展したものであるといえよう。
宗教がある種の食品を禁じることにより、なんらかの食習慣をつくりだすことは、しばしばみられる現象である。仏教はそのよい例で、あらゆる種類の動物の殺傷を禁じているがゆえに仏教徒は乳を除く動物性食品をとることができず、菜食を行うものとされる。明治以前の日本は仏教の食習慣の影響をある程度受けたが、魚貝類は禁止の対象とならず、これをも含んだ寛容な菜食の習慣が一般にとられていた。しかし禅宗など戒律の厳しい宗派の寺院では厳格な菜食を実行し、動物性食品をまったく用いない精進(しょうじん)料理が発達した。また神道においても、なんらかの神事の準備段階において神主が体を清く保つために動物性食品を遠ざけるということがみられた。カースト制度下のインドでは、「穢(けがれ)」の概念により階層化が成立しており、「穢」れた食物、すなわち動物性食品のうちどの品目をとってよいのかは階層に応じて定められている。上の階層ほど食物禁忌が多く、最上層のブラーマン(神官)のカーストともなると厳格な菜食を守らなくてはならない。
一方、菜食の文化伝統をあまりもたない西洋文明においても、古くよりピタゴラス、プラトンなど、また最近ではルソー、トルストイなど多くの思想家が菜食主義を唱えた。これらの人々の考え方は、動物を殺して人間が食べるということが理不尽であるとするものや、またと畜という行為が残忍な性格をよび、ついには戦争という事態に至るのでよくないという平和主義的なものであった。今日の栄養学からみれば、植物性食品にのみ依存すると良質タンパクの摂取が十分でなくなるので、厳格な菜食主義はかならずしも健康によくない。動物性タンパクのとりすぎに対する反省から欧米では菜食を実行する人が増加しているが、実際には乳製品や卵を含んだ寛容な菜食や、日を定めて行う菜食である場合が多い。
[山本真鳥]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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