日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベルコール」の意味・わかりやすい解説
ベルコール
べるこーる
Vercors
(1902―1991)
フランスの小説家、エッセイスト。本名はJean Bruller。筆名は、南フランスの有名な対独レジスタンス運動の根拠地名にあやかったもの。パリ生まれ。エンジニア、挿絵画家を経て第二次世界大戦中、ナチス・ドイツ占領下に友人と地下出版「深夜双書」を始め、その第一巻の短編小説『海の沈黙』でデビュー。戦後も、とりわけ1940、50年代を最盛期に、ユニークなヒューマニスト作家として活躍している。小説ではほかに同双書第二巻としてやはり非合法出版された第二作『星への歩み』(1943)や、戦後では『夜の武器』(1946)、『昼の力』(1951)といった短編、のちに自ら『動物園』の題で劇化(1964初演)した長編『人獣裁判』(1952)などの評判が高い。エッセイでは『時の砂』(1945)、『多かれ少なかれ人間』(1949)などが注目される。
彼をヒューマニスト作家というのは、彼の作品には一貫して、アクチュアルに時代に密着しながらも、いわばレジスタンスの精神に忠実に人間性擁護の姿勢が際だつからにほかならない。「抵抗作家」の名は、なによりも彼にこそふさわしいといっていいだろう。近作に『航跡』(1972)、『兄弟のように』(1973)、自筆の挿絵を入れた料理の手引書『わたしは料理長』(1976)などがある。
[渡辺 淳]
『河野与一・加藤周一訳『海の沈黙・星への歩み』(岩波文庫)』