日本大百科全書(ニッポニカ) 「レシ」の意味・わかりやすい解説
レシ
れし
le récit フランス語
ごく普通には、物語、お話の類(たぐい)をいうが、フランスの作家アンドレ・ジッドは自分の作品を分類して、『背徳者』(1902)、『狭き門』(1909)、『イザベル』(1911)、『田園交響楽』(1919)、『女の学校(三部作)』(1929~36)をレシとよんだ。主題はそれぞれ異なるが、普通の叙述で展開されていく。彼がロマンromanとよんだ『贋金(にせがね)つかい』(1926)にみられる複雑な構成もなく、ソチsotieとよんだ『法王庁の抜け穴』(1914)にみられる筋の拡散もなく、整然と一つの物語が一つの視点から語られている。
一方、同じくフランスの作家カミュは、自作の『異邦人』(1942)をロマン、『転落』(1956)をレシとよんだ。プレイヤード叢書(そうしょ)版で前者は82ページ、後者は74ページである。ともに一人称小説であるが、前者では主人公の身に起きるできごとが順を追って語られる。後者では主人公が、すでに過去となったできごとを順不同で語って聞かせる。完了した過去、すでに整理されたできごとの物語を、カミュはレシと名づけたのである。
[白井浩司]