日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホッター」の意味・わかりやすい解説
ホッター
ほったー
Hans Hotter
(1909―2003)
オーストリアのバス・バリトン歌手。ミュンヘンで哲学、ついで指揮、オルガン演奏など幅広く音楽を学び、当初教会音楽家として活動する。1930年オペラにデビュー。以後約10年間ハンブルクで活躍したのち、ミュンヘンを中心にドイツ、オーストリアの主要歌劇場で、第二次世界大戦後はロンドン、ニューヨークなどでも活躍した。ワーグナーの作品の歌唱、なかでも『ニーベルングの指環(ゆびわ)』のウォータンに代表される知性的で緊張感のある解釈で高い評価を獲得、20世紀なかばのもっとも優れたワーグナー歌手の一人とされた。1950年代から60年代前半は、バイロイト音楽祭で数々の名唱を残した。一方、1941年からは歌曲のリサイタルを始め、彫りの深い表現で知られたシューベルト『冬の旅』の歌唱は127回に及んだ。72年オペラの舞台からは引退、その後はベルクの『ルル』など限られた役しか引き受けず、歌曲を中心に活動を続けた。教育者としても名高い。1962年(昭和37)初来日。
[美山良夫]
『ウィーン国立歌劇場友の会編、香川檀訳『ウィーン・オペラの名歌手(1)』(1988・音楽之友社)』▽『ペネロペ・テューリング著、住田健二訳『ハンス・ホッター――名歌手の横顔』(1994・音楽之友社)』