ほんだわら

精選版 日本国語大辞典 「ほんだわら」の意味・読み・例文・類語

ほん‐だわら‥だはら

  1. 〘 名詞 〙
  2. 褐藻類ホンダワラ科の海藻。本州から九州の沿岸の干潮線付近に生える。高さ一~四メートル。茎はねじれて三~四稜があり、よく分枝する。下葉は長さ三~五センチメートルのへら形で縁は不規則な鋸歯(きょし)がある。上葉は小さく倒披針形楕円形倒卵形の俵状の気胞を多数つける。カリ肥料・食用・鏡餠の飾りなどにする。馬尾藻。神馬藻。玉藻。なのりそ。たわらも。ばつもう。ほだわら
    1. [初出の実例]「ほんだわら に物。なます。にあへ。すさい」(出典:料理物語(1643)二)
  3. の干したものを米俵の形に折りたばね、正月蓬莱(ほうらい)の飾りに用いるもの。ほだわら。《 季語・新年
    1. [初出の実例]「蓬莱かざる〈略〉ほだはら、ほんだはら」(出典:俳諧・増山の井(1663)正月)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ほんだわら」の意味・わかりやすい解説

ホンダワラ
ほんだわら / 馬尾藻
[学] Sargassum

褐藻植物、ホンダワラ科の海藻をいう。一般にモ、モクとよばれる一群で、長いものでは8メートル以上になるものもある。それぞれ特徴のある気胞をもち、日本近海には約70種生育するが、うち約30種は本州を中心に分布する。南半球のオーストラリアも、日本と同様この類の多い地域である。一年生藻、多年生藻のいずれもあるが、大きさとの関連はない。なお、ホンダワラの古名としてよく知られているのがジンメソウ(神馬藻)、ナノリソ莫告藻)である。

 分類は肉眼的な形態の特徴で行われ、根、茎、葉、気胞、冠葉(気胞の先端にある小葉あるいは突起)、生殖器床などの外形が取り上げられる。植物愛好家でもこの類の分類は困難なものと考えられているが、その原因は、陸上の草木のようには接する機会が多くないこと、前記の諸器官が欠けていると同定しにくい場合があることなどによる。

 生殖器床はこの類を特色づける生殖器官で、円柱状のもの、しゃもじ状に平たいもの、分岐するものなどがある。いずれも多数の生殖器巣を内蔵し、その内部に造精器、生卵器を形成する。それらから放出された精虫と卵で受精が行われ、発生体は本体となっていく。生殖器床は一般に雄は細くて長く、雌は太くて短い。しかしアカモクS. horneriのように雌でも2~3センチメートルと長いものもある。アカモクなどでは雌雄の差は明らかであるが、生殖器床が5ミリメートル以下の短い種類ではその区別は容易ではない。

 ホンダワラ属のなかでは、種としてのホンダワラS. fulvellumは代表種のように思われるが、量的にはさほど多くない。ウミトラノオS. thunbergiiはこの類のなかでは高い水位(小潮時の低潮線近く)に生育し、分布も広いため、もっともみかける機会が多い。ほかにノコギリモクS. macrocarpum、オオバモクS. ringgoldianum、ヨレモクS. siliquastrumなどが一般的である(別属のジョロモクMyagropsis myagroidesも同様に多い)。またヤツマタモクS. patensもごく普通にみられ、モズク(褐藻植物)やオゴノリ(紅藻植物)の着生基盤となっている。タマハハキモクS. muticumは宮城県以南に分布するが、現在は北米太平洋岸やヨーロッパでも大繁殖している。これは、日本からカキの稚貝が輸出された際、本種の幼胚(ようはい)が付着して運ばれたためと考えられている。

[奥田武男]

利用

現在の海藻利用の面からみると、ホンダワラ類の比重はさほど大きくない。しかし、古くから生活とのかかわりが深かったことは明らかで、いまも継承されている塩竈(しおがま)神社(宮城県)の藻塩焼(もしおやき)の神事ではホンダワラが使われている。これは、食生活上の基礎として米とともに重要であった塩を得るために、ホンダワラ類を積み重ね、海水をかけて濃縮したことに由来する神事である。また、『延喜式(えんぎしき)』のなかには、租税として指定された海藻としてナノリソの名がみえる。食用以外では、正月の鏡餅(かがみもち)にウラジロユズリハなどとともにホンダワラをいっしょに飾ったり、門に掲げる風習が残されている。さらに、化学肥料が使用される以前は、ホンダワラ類は腐らせてカリ肥料とされてきた。現在でも、一部の海岸地帯では、この方法によってカリ肥料を収穫している。

[奥田武男]

ホンダワラ類と藻場

藻場(もば)とは大形海藻の群落のことで、海中林ともよばれる。構成種によりコンブ類、ホンダワラ類、アマモ類(顕花植物)の三つがあり、ホンダワラ類の場合は「ガラモ場」ともよばれる。藻場は海中の小動物や魚類にとって、成育あるいは産卵の場となるので、開放的ながらも生産性の高い生物社会が形成されることとなる。藻場での漁業生産は、藻場のない所の5~17倍とも試算されており、現在では間接的な利用形態としての藻場の認識が深まるとともに、人工的な造成が試みられるに至っている。

[奥田武男]


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改訂新版 世界大百科事典 「ほんだわら」の意味・わかりやすい解説

ホンダワラ
gulf weed
Sargassum

海藻の中で最も進化した仲間で,外見上,体は種子植物のように,根,茎,葉に分化し,長いものは数mまたは十数mにもなる褐藻綱ヒバマタ科の1属。温帯から熱帯にかけての海の,潮間帯下部から低潮線下に多く生育し,体の上部にガスの入った気胞をたくさんつけ,これで体は海中に直上するので,ホンダワラ類が群生するところは海中林を形成する。有性生殖器官は体の上方に特殊な形に分化した生殖器托内に生卵器および造精器として形成される。精子は大潮の前後に放出され,雌性生殖器托の表面についている卵に泳ぎついて受精が行われる。受精卵は,母体上で細胞分裂を繰り返して仮根を形成した後に離れて,海中の岩上などについて生長する。ホンダワラ属は種類数が多く,全世界で約150種の記載がある。日本沿岸はこの類が最も多産する地域で,約60種の生育が知られる。おもな種類にマメダワラS. piluliferum Ag.,ウミトラノオS. thunbergii Ag.,アカモクS. horneri (Turn.) Ag.,ノコギリモクS. serratifolium Ag.,ホンダワラS. fulvellum (Turn.) Ag.などがある。大西洋のサルガッソー海は〈藻の海〉の意で,ホンダワラ類が海面に多量に浮遊して群落をつくっているところであり,その主要種はS. natans (L.) Meyenである。最近,ホンダワラ類を大量養殖し,これをバクテリアにより発酵させてメタンガスを得る実験が日本で進められている。
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百科事典マイペディア 「ほんだわら」の意味・わかりやすい解説

ホンダワラ

モクとも。褐藻類ホンダワラ科の海藻。寒流の影響を受けない日本各地の沿岸に分布する。体は長さ1〜2m,外見上,根,茎,葉の区別があり,上方には気胞があって,海中で体を直立させている。生殖は卵と精子の受精による。全体を乾燥させて新年の飾りとし,肥料ともする。近縁種が多く,日本近海だけでも30以上。おもなものにノコギリモク,アカモク,イソモク,マメダワラ,ウミトラノオなどがあり,藻場の構成種として重要。サルガッソー海の海面をおおう大群落も同属の種である。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ほんだわら」の意味・わかりやすい解説

ホンダワラ(馬尾藻)
ホンダワラ
Sargassum fulvellum

神馬藻とも書く。褐藻類ヒバマタ目ホンダワラ科の海藻。低潮線付近の岩上に生じる。藻体は一年生で,主軸をなす茎は三稜形または四角柱で強くねじれている。これから多数の小枝を分ち,それにへら形,楕円形または披針形で明瞭な鋸歯をもつ葉や,楕円形または倒卵形で円頭または微円頭の気胞をつける。雌雄異株で,円柱状の生殖器托をつける。本州太平洋岸,八丈島,瀬戸内海,九州西・北岸,日本海岸の新潟県まで広く分布する。古くは「なのりそ」と称せられ,煮て食べたり,米俵形に巻き束ねて祝事の具にした。正月の鏡餅や輪飾りなどに,今日でも添えられる。

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世界大百科事典(旧版)内のほんだわらの言及

【海藻】より

…日本中部太平洋沿岸の成層分布の様子は次のようである。高潮線~潮間帯上部にはハナフノリ(紅藻),フクロフノリ(紅藻),ヒトエグサ(緑藻)が,潮間帯中部にはイワヒゲ(褐藻),イシゲ(褐藻),イロロ(褐藻)が,潮間帯下部にはヒジキ(褐藻),ウミトラノオ(褐藻)が,低潮線付近にはホンダワラ類(褐藻),ソゾ類(紅藻)がみられる。潮間帯の海藻の成層分布は空中に露出する時間,すなわち乾燥の程度と密接な関係があるとされ,日本中部の日本海沿岸にヒジキなどが生育しないのは干潮の差の少ないためと説明されている。…

【生物濃縮】より

…また,生物濃縮現象を利用して,生物体を分析することにより,環境中にごく微量にしか存在していない放射性物質の濃度,あるいはその変化の傾向を推定することができる。この目的で使用される生物を指標生物といい,褐藻のホンダワラ,二枚貝のムラサキイガイなどが利用されている。【稲葉 次郎】。…

【モズク】より

…不規則に密に分枝をもつ柔らかい粘りけの多い糸状の褐藻で,食用となる(イラスト)。体は黄褐色または緑褐色で,低潮線付近の褐藻ツルモホンダワラ類の体上について生育し,長さ30~40cmになる。北海道南西部以南の日本各地沿岸,特に内湾に多く生育し,冬から初夏に繁茂する。…

※「ほんだわら」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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