翻訳|brown algae
植物分類学上の1門、あるいは褐色植物門の1綱(褐藻類)として扱われる藻類。ほとんどが海水中に生活し、世界で約240属、1500種ほどが知られ、日本では、淡水のヘリバウディエラ1種と約400種の海産種が生育する。褐藻植物は、光合成色素としてクロロフィルaとcのほか、フコキサンチンなどの色素をもち、体色は褐色である。葉緑体は4枚の膜で包まれ、三重のチラコイドラメラ(葉緑体の構造単位となる薄い層)をもつ。同化貯蔵物質にはラミナラン、マンニトール、フィコステロールなどがある。細胞壁の主成分はセルロースである。繁殖を行う遊走細胞は洋ナシ型で、体の腹部から前方に羽型の長鞭毛(べんもう)と、後方にむち型の短鞭毛を出す。体はすべて多細胞からなり、高さ数ミリメートルのものからコンブのように20メートル以上になるものまである。
褐藻植物の成長様式には、体の頂部にある成長点細胞が分裂して体をつくる頂端成長型(アミジグサ類、ホンダワラ類)、成長点細胞が体の縁(へり)に並んで成長する縁辺成長型(この型では体は扁(へん)型となる。ウミウチワ類)、体の先端にたくさんの毛を生じ、これらの毛が成長するとともに互いに絡み合い体をつくる頂毛成長型(ムチモ)、そしてコンブなどのように成長点が体の基部などにある介生(かいせい)成長型などがある。
生活史の様式からみると、ヒバマタ・ホンダワラ類のように配偶体のみが存在し、世代交代を行わないもの、アミジグサ類のように配偶体と同形同大の、四分胞子嚢(のう)を形成する四分胞子体ができ、これが発芽して配偶体となり、規則正しく世代交代を行うもの(同型世代交代)、配偶体と胞子体とが互いに形態と大きさを異にして世代交代を行うもの(異型世代交代)とに分けられる。異型世代交代を行うものには大形の配偶体に比べて胞子体の小さいもの(ムチモ類)、大形の胞子体に比べて顕微鏡的な大きさの配偶体をもつもの(ワカメ・コンブ類)などがある。褐藻植物の分類には、こうした生活史の様式をはじめ、生殖の方法、体形成様式などが重要な形質であり、13目に分類される。
コンブ科やホンダワラ科のなかには大形となり、海中林を形成するものが多い。海中林は沿岸海域に生息する魚類の生息場所、あるいは産卵場所として重要である。また、これら海藻は、大量に採取されて工業的に有用とされるものも多い。糖アルコールの一種であるマンニット(マンニトール)はコンブ科の海藻に多く含まれ、乳糖ほどの甘さがあることから、乳糖の代用や甘味料として用いられる。「味の素」のグルタミン酸はコンブから発見されたものである。北アメリカ西海岸に生育するコンブ目に属するマクロシスチスは、長さ60メートル余にもなる大形海藻で、大形採取船で刈り取り、主としてアルギン酸をつくっている。日本でもアラメ、カジメがアルギン酸原藻として利用されている。アルギン酸は褐藻植物の細胞壁成分で、水溶性の粘性であることを利用して食品添加物、増量剤、乳化剤、培養基などに広く利用されている。
[吉崎 誠]
クロロフィルaとcのほかに主要な色素としてフコキサンチンをもち,光合成により可溶性糖類のマンニトールとラミナランlaminaranをつくる藻類。全世界で約240属1500種の生育が知られるが,そのほとんどは海産である。とくに寒海では種類数が多く,また大きな海中林をつくるなど量も多い。褐藻類には単細胞のものはなく,すべてが多細胞で,単列糸状,多列葉状から,外見上,根,茎,葉が分化した茎葉体にいたるまで体制は多様である。最も高度に分化した体制の褐藻はホンダワラ類で,根より直立する茎には葉が叢生(そうせい)し,茎の先端部には茎を直立させる働きをもつ気胞がある。コンブ科のコンブ類やオオウキモ類の体は分化の程度はホンダワラ類よりやや劣るが,体内には高等植物の師管に似た構造があり,光合成により体の先端部につくられた栄養分がここを通って基部に移動することが確かめられている。なお南北アメリカ大陸の太平洋沿岸,オーストラリア南岸および南アフリカ南岸などに生育するオオウキモは世界最大の褐藻で長さ60mにも達する。日本ではナガコンブやオニコンブが最大で30m以上になる。
褐藻の生活史には大別して次の4型がある。すなわち(1)配偶体が胞子体より大きいムチモ型(Cutleria type),(2)配偶体と胞子体の形や大きさが同じアミジグサ型(Dictyota type),(3)配偶体が胞子体より小さいコンブ型(Laminaria type),および(4)複相の体のみからなるヒバマタ型(Fucus type)である。
褐藻にはヒジキ,ワカメ,コンブ,モズクなどのように食用となるものが多く,またカジメ,アラメなどのようにアルギン酸の原藻となるものも多い。アルギン酸はアイスクリームや種々の薬品の安定剤として広く用いられるほかに,捺染の媒染剤にも使われる。大型褐藻がつくる海中林は魚介類のよい生息場であり,水産上重要である。また最近は大型褐藻類を大量に海中で養殖し,これをバクテリアで発酵させてメタンガスを発生,燃料とする計画がある。
執筆者:千原 光雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…ブーレリーP.Bourrellyが1957年に創設した植物分類系の1門。パッシャーA.Pascherが1914年に創設した黄金色(おうごんしよく)植物Chrysophytaと,ウェットシュタインR.R.Wettsteinが1901年に創設した褐藻類を包含する。クロロフィルaとcのほかにフコキサンチンなどのキサントフィル色素をもち,ラミナランlaminaranなどの水溶性炭水化物を光合成により生産する褐藻植物門に所属した褐藻類,黄金色植物門に所属した黄金色藻類(黄金鞭毛藻類,ヒカリモ類),ケイ藻類,ラフィド藻類(緑色鞭毛藻類),黄緑藻類(不等毛類)などの一群,約550属1万2000種をさす。…
… 細胞壁の有無は動植物の差の一つであるが,単細胞藻類には細胞壁をもたないものが多い。また,同じ細胞壁でも,陸上植物や緑藻類ではセルロースなどを基質としたものであるが,褐藻類や紅藻類ではフコイジン,ラミナリン,寒天,キチン質などでできており,簡単に同質と断じることはできない。さらに,生活環のある時期,とくに生殖細胞には細胞壁はない。…
…このことを少し詳しく説明すると次のようである。クロロフィルaのほかに主要な補助色素としてフィコエリトリンやフィコシアニンなどの色素タンパク質をもち,光合成産物として紅藻デンプンを貯蔵する紅藻類は鞭毛をもたない生殖細胞をつくるのに対し,クロロフィルaとcのほかにフコキサンチンをもち,ラミナランやマンニトールを貯蔵する褐藻類は,長短2本の鞭毛を側部にもつ先のとがった卵形の泳ぐ生殖細胞を形成する。この2本の鞭毛のうち,前方に伸びるものは両側に小毛を並列する,いわゆる羽型鞭毛であり,後方に伸びるものは表面に付属物のないむち型鞭毛である。…
※「褐藻植物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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