日本大百科全書(ニッポニカ) 「オゴノリ」の意味・わかりやすい解説
オゴノリ
おごのり / 於期苔
sewing thread
[学] Gracilaria verrucosa Papenfuss.
紅藻植物、オゴノリ科の海藻。暗紅色で、粘滑質の細い紐(ひも)状の体枝をもつ分岐草状体をなす。対生あるいは互生の枝分れをするが、一方に偏生する分枝が多いため、逆さにつるすと髪を束ねたようなかっこうになるので、海髪、頭髪菜の漢名が使われてきた。老成体では、体枝表面にゴマ粒大の生殖器官が数多く突出してくるのがオゴノリ類の特徴である。体長15~30センチメートルのものが多く、岩上あるいは礫(れき)上に着生する多年生藻で、春から初夏にかけて繁茂する。体枝の再生力が強く、ちぎれた体枝が漂流しながら伸長し、潮流の関係で海底に寄せ集められた所などでは体長1~2メートルぐらいになるものもある。外海の高塩分海域にも、河口付近の低塩分海域にも生育する適応力の強い海藻で、日本の全沿岸に広く分布する。北海道のサロマ湖、東京湾奥部、島根県の中海(なかうみ)などが多産地として知られていたが、浅海域の埋立て、水質汚濁などのために産地に変動がおこっている。地方名に、オゴ、ウゴ、ウゴノリ、ナゴヤなどがある。
現在オゴノリは日常の食品として、あるいは寒天製造の原料として広く利用されるが、10世紀の書である『延喜式(えんぎしき)』にも於期菜(おごのり)の名が出ており、食品としての歴史は古い。刺身のつまによく出る鮮青色のこりこりとした海藻がオゴノリで、採取後に木灰や生石灰にまぶして保蔵し、使用前に熱湯に漬けて戻したものである。このとき鮮青色に変色する。採取後の取扱いが不適当だと、よい色が出ない。寒天原料とする場合には、とくに脱色操作を行う。
オゴノリ属には多数の種があり、体形がオゴノリとは違うカバノリのようなものもあるが、よく似ていて区別しにくいものにシラモ、ツルシラモ、オオオゴノリなどがある。これらの種はよく混同されるが、用途上では一括してオゴノリとされる。なお、オゴノリ類はアフリカ東岸、インドシナ半島、また南アメリカの東西両岸にも多量に産するが、近年、日本ではそれらの諸国から輸入して寒天原料にしている。最近ではこれらの諸地域をはじめアメリカ、カナダなどの沿岸でもオゴノリ類の人工養殖を始めた。なおハワイ諸島では、日系移民の人たちが地元産オゴノリ種をオゴとよんで、古くからサラダ風に味つけして食してきたが、現在ではその風習が南太平洋の諸島にも広がり、オゴサラダとよばれて賞味されている。
[新崎盛敏]