翻訳|Sargasso Sea
フロリダ海流,湾流,北大西洋海流,カナリア海流,北赤道海流,アンティル海流などの北大西洋を時計回りに一巡する大海流系の中心部のほとんど流れのない亜熱帯収束域(北緯20~40°,西経30~80°)をいう。この名は,ここにホンダワラ類(属名Sargassum)の海藻がたくさん表層に漂っているところからきている。藻海とか大藻海とも呼ばれる。亜熱帯高気圧帯に属し,風も弱いので帆船時代には〈船の墓場〉として恐れられたこともある。今も〈魔のバミューダ三角海域〉などの言葉が残っている。海水は北大西洋中央水で,塩分が高く,表層水の塩分37‰前後,水温20~25℃,リン酸態リン0.1μmol/l(=μgatoms/l)前後,ケイ酸態ケイ素2μmol/l以下,硝酸態窒素0.4μmol/l以下である。有光層のクロロフィル含量は0.05~0.1mg/m3,炭素の重さで総生産量0.44g/m2/日,純生産量0.2g/m2/日程度である。このように高温,高塩分などのためプランクトンが少なく,透明度は66mの世界記録をもつ。これらの値は黒潮域や黒潮反流域のそれに近いが,ヨーロッパ地中海から流出する高塩分の水が混入するために,北大西洋中央水の中層水には,他の大洋の中層水の特徴である塩分極小層が存在しない。
ここに漂っている海藻はS.natansやS.hystrixなどで浮囊をもち,ホンダワラ属の他の種と異なって付着器や生殖器をもたず,二分法によって殖えるたいへん特殊なものである。この海藻の起源については,フロリダや西インド諸島などの海岸に生えていたものが波にさらわれて集積したなどの説がある。この流れ藻には,その特殊な生活環境に適応した生物群が住みついている。これらは大陸や島の沿岸性のものとは独立した種類である。コケムシやエボシガイなどの付着生物や小さなカニやヨコエビ,ハナオコゼなどが藻の上をはい回ったり,その間を泳いだりしている。これらの動物は周りの藻体と見分けるのが困難なほど似ている。
サルガッソー海はデンマークのシュミットJohannes Schmidtによって1922年にヨーロッパ産ウナギAnguilla anguillaの産卵場であることが確かめられた。彼は1904年にウナギの変態前の子魚であるレプトセファラスLeptocephalusを北部大西洋のフェロー諸島近くで採取した。第1次世界大戦による中断はあるが,1908年から地中海および北大西洋を調査して22年バミューダ島の南東海域で体長10mm未満の孵化(ふか)後間もないと思われる子魚を得た。得られた子魚の体長による地理的分布図を描くと,本海域のものが最も小さく,離れるにつれて大型のものになった。またアメリカ産ウナギA.rostrataの産卵場も同海域であることがわかった。これらは水深300~400mの中層で産まれて,表層に浮上し,海流に乗って沿岸に達するが,それには,前者で約3年,後者で約1年を要する。両者は分類学的には筋節数や脊椎骨数の違いで区別されるが,ヘモグロビンの電気泳動像などからこれらは同一種であり,産卵場へ帰りつくのはアメリカ産ウナギのみであるとする説もある。
執筆者:二村 義八朗
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北大西洋のアメリカ合衆国およびバハマ諸島東方の広大な海域。サーガッソー海ともいう。北と西はガルフストリーム(メキシコ湾流)によって明確に画されるが、南と東の境はあまりはっきりせず、東は西経40度、南は北緯20度ぐらいまでとされる。同海域の周縁を囲むようにガルフストリーム、北赤道海流、カナリー海流が時計回りの循環運動をし、深部で大部分がガルフストリーム本流に流れ込んでいる。しかし海面に近い海流の運動は、とくに夏季にはその方向を逆転させるため、循環運動が静止することが知られている。海水の蒸発量が降水量より大きく、水温、塩分も高い。そのためプランクトンが少なく、透明度は世界の海のなかでもっとも高い。サルガッソーの名は海藻のホンダワラ(サルガッサム)に由来し、海水面に浮遊する黄褐色のホンダワラと紺碧(こんぺき)の海とが鮮やかな色彩の対比をなす。推計によると、同海域周辺に浮遊するホンダワラの量は400万~1100万トンに達するとされる。かつては繁茂する藻が船にまつわりついて、航行の自由を失い、難船すると恐れられていた。またこの海域は、ヨーロッパ産のウナギの産卵場として知られる。
[栗原尚子]
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…体が透明でヤナギの葉のような形をしたレプトセファラス(葉形幼生)がウナギの仔魚(しぎよ)であることは,当時すでに知られていた。シュミットは1904年から調査船で北大西洋の各水域を回って採集を重ねた末,より小さなレプトセファラスの採集される場所をたどって,ついに22年バミューダ島の南東方のサルガッソー海がウナギの産卵場であることをつきとめた。日本のウナギの産卵場はまだ明らかにされていないが,これまでのレプトセファラスの採集された位置や海洋条件などから判断して,沖縄の南方,台湾の東方の水域が産卵場としてもっとも有力視されている。…
…北大西洋の東西岸が一連の海洋生物地理区となる点では太平洋の場合と同じであるが,中緯度,低緯度の沿岸浅海生物相でも東西両岸にあまり著しい差がなく,多くの共通種が見られることは太平洋の場合とまったく異なる。 表層の植物プランクトンによる基礎生産量は,太平洋と同様に縁辺部には大洋としては高い生産量を示す富栄養域(炭素にして250mg/m2・日)が存在するが,その沖合の中栄養域(炭素にして100~250mg/m2・日)の部分が赤道以北では中央部まで広がり,貧栄養域(炭素にして100mg/m2・日以下)がフロリダ東方沖合の環流部に当たるサルガッソー海に局限されていることは,太平洋とは著しい対比が見られる点である。サルガッソー海は大西洋における〈うなぎ〉の産卵場として知られ,孵化(ふか)した幼生は成長しながら北アメリカ東岸やヨーロッパに向かって運ばれる。…
…ホンダワラ類は2~3ヵ月生き続け,量的にも多く,広い海域に出現する。サルガッソー海(藻海)は海面を流れ藻が埋めつくしている特殊な水域だが,この構成種はもともとはヨーロッパやアフリカの沿岸で着生生活を送るホンダワラの種類が,海面での浮遊生活でも生活史を全うできるようになった変種である。太平洋ではこういった流れ藻はいまだ認められていない。…
…おもな種類にマメダワラS.piluliferum Ag.,ウミトラノオS.thunbergii Ag.,アカモクS.horneri (Turn.) Ag.,ノコギリモクS.serratifolium Ag.,ホンダワラS.fulvellum (Turn.) Ag.などがある。大西洋のサルガッソー海は〈藻の海〉の意で,ホンダワラ類が海面に多量に浮遊して群落をつくっているところであり,その主要種はS.natans (L.) Meyenである。最近,ホンダワラ類を大量養殖し,これをバクテリアにより発酵させてメタンガスを得るエネルギー計画の実験が日本で進められている。…
※「サルガッソー海」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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