改訂新版 世界大百科事典 「ボデル」の意味・わかりやすい解説
ボデル
Jean Bodel
生没年:1165ころ-1210
フランス12世紀末の詩人。13世紀に輩出する市民出身トルベールの先駆。当時著しい活況を呈しつつあった北フランスの商工業都市アラスの市民的雰囲気のなかで全生涯を送ったものと思われる。有名な〈アラス芸人町人兄弟団〉に属し,市の有力者の庇護のもとに職業詩人として暮らし,市庁の業務にも従事した。第4回十字軍(1202)への参加を目前にして癩病におかされ,アラス近郊の癩者収容所に入ってそこで没した。
その文学活動の密度は高く,手がけたジャンルも多岐にわたる。語りものの系列としては,まず,こっけいで風刺的なファブリオ(小話)9編があり,また,やや時期おくれの変質した武勲詩ながら,サクソン王とシャルルマーニュとの戦いを語る《サクソン族の歌》(1196ころ)を残している。最も重要な作品はフランス語最古の奇跡劇《聖ニコラ劇Jeu de saint Nicolas》(1200ころ)であり,キリスト教徒が異教徒軍に敗れたあとに聖ニコラ(ニコラウス)が財宝守護の奇跡を現して異教徒を改宗させるという筋だが,宗教的・叙事詩的な荘重さのなかに卑俗こっけいな場面が大幅に混入し,13世紀の世俗劇興隆を予告するものとなっている。抒情詩としては,5編の田園牧人歌のほかに,罹病ののち知人に別れを告げるために書いた《惜別賦》があり,感懐を訴えて哀切,その独創的な形式はのちにアダン・ド・ラ・アルなどの模倣を生んだ。
執筆者:長谷川 太郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報