改訂新版 世界大百科事典 「ファブリオー」の意味・わかりやすい解説
ファブリオー
fabliaux
中世北フランスの韻文で書かれた笑話。一編数十行のものから1000行を超えるものまであり,150編ほどが残されている。そのうち作中でファブリオーといっている作品は60編ほどである。中世の作品の中には作中でファブリオーといいながら内容がこっけい譚でないため,いまはファブリオーとされない作品もある。大部分は平韻8音節で書かれている。会話が多く用いられていて口演者が声色を使い身ぶりを交えて語ったことを推測させる。ファブリオーという名称は〈ちいさなファーブルfable〉という意味で,ピカルディーの方言形であり標準語(フランシャン)ではファブローfableauであるが,ベディエが北フランスに多いこの作品群をピカルディー方言形で呼ぶことを提案して以来ファブリオーというようになった。
ファーブル(寓話)は話の終りに寓意を示す道徳的格言をもつことが多いが,ファブリオーの末尾も教訓的格言をもつことが多い。12世紀末から13世紀前半まで盛んであったジャンルで,J.ボデル,リュトブフらも書き,ゴーティエ・ル・ルー,クルトバルブ,ユースタシュ・ダミアン,ユーグ・ピオセルら作者名を残しているものもあるが,大部分は無署名である。14世紀になってもワトリケ・ド・クーバン,ジャン・ド・コンデによって書かれたが,15世紀以後は散文のコントに代わられた。ファブリオーのいくつかは《ゴンベールと2人の学僧》が,チョーサーの《カンタベリー物語》の中の〈代官の話〉に使われたり,《百姓医者》が,モリエールの《いやいやながら医者にされ》に使われたりしている。《千夜一夜物語》やイタリアのノベラにも類話をもつファブリオーがあることから,19世紀にはドイツのT.ベンファイによるヨーロッパ説話のインド起源説の一環として論じられたこともあったが,ベディエの研究書による批判以後,インド起源説は衰えた。しかし10ほどのファブリオーについては東方起源が認められている。
執筆者:松原 秀一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報