ファブリオー(読み)ふぁぶりおー(英語表記)fabliaux

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ファブリオー」の意味・わかりやすい解説

ファブリオー
ふぁぶりおー
fabliaux

フランス中世の主として13世紀に、北フランス(ことにピカルディ、アルトア地方)で流行した韻文小話(こばなし)約150編の総称。『狐(きつね)物語』と並んで、新興市民階級の嘲笑(ちょうしょう)的、風刺的な精神を代表し、近代短編小説の祖先とみなされる。

 作中人物は町民、騎士、司祭修道僧百姓などで、彼らの生活風俗や気質が会話を中心にした簡潔な叙述のうちに活写されているため、中世社会の実態をうかがううえでの貴重な資料ともなりうる。まぬけな亭主や偽善的な僧侶(そうりょ)が悪ふざけの犠牲者となるような筋の単なる笑い話が多いが、なかには教訓的な意図をもつものもある。名の伝わらぬ吟遊詩人・学僧の作『コンピエーニュの三人盲』『百姓医者』『毛布分け』などのほか、著名な詩人リュトブーフの作『ロバの遺言』などもある。民間伝承としての起源は太古の闇(やみ)に隠れているが、文学形態としてはラテン喜劇の影響が認められる。一方、12~13世紀の新興市民社会の成立という背景とも関連づけられる。

山田 

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ファブリオー」の意味・わかりやすい解説

ファブリオー
fabliau

フランス中世文学における韻文による笑話,小ばなしの総称。 12世紀後半から 13世紀にかけて盛んに行われ,147編が現存。8音綴で平均して 300~400行の長さで,卑俗な題材を赤裸々に語る。人間の悪知恵欲望を指摘し,罪のないいたずら,軽い風刺,陽気でしばしば猥雑なユーモアを交えたものが多い。成立過程,正確な創作時期はほとんど不明であり,1170年頃の『リシュー』 Richeutが最古のものとみなされる。作者無名な者が多いが,リュトブフボデルが有名。

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