西洋中世の宗教劇の一種。もともとは聖母マリアによる人間の奇跡的救済の物語をさしてミラクルといったが、やがて、聖書に取材する聖史劇あるいは受難劇など狭義の宗教劇と区別して、マリアや聖人たちによる奇跡伝説を扱う劇をとくにさすようになった。ただし、とくにイギリスでは、宗教劇の総称としてミラクル(ズ)ということが多い。人間の過ちと悔悛(かいしゅん)による救いとの対照を際だたせ、その激烈な転換を可能にする、とくに聖母マリアの愛を強く打ち出すことに演出の力点が置かれた。典礼から生まれた聖史劇と違って、現在の世俗社会を表現するものであるから、早くから教会の外へ出ていた。悪魔に魂を売って享楽する、13世紀後半フランスのリュトブフ作『テオフィルの奇跡』や、世を欺いて男装し、法王にまでのし上がるが、不義の子を分娩(ぶんべん)し、地獄の恐怖からマリアに救いを求める、15世紀末ドイツのディートリヒ・シェルンベルク作『ユッタ(ユッテン)』が有名である。また、マックス・ラインハルトによる祝祭劇的スペクタクル演出で現代に一つの方向を示した1911年ロンドン、オリンピア・ホールでのカール・フォルメラー作『奇跡』は、マリア奇跡劇の現代化の一例である。
[尾崎賢治]
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…用語は英語となり,演者も聖職者から俗人に変わった。こうして成立したのが奇跡劇である。これは天地創造からキリストの復活まで,あるいは最後の審判までの聖書の物語を,多数の短い劇にまとめたものである。…
…古来,演劇は宗教,あるいは宗教的・祭儀的なものと密接に結びついており,古代ギリシア演劇はいうまでもなく,インドのサンスクリット古典劇(インド演劇)にせよ,あるいは日本の能にせよ,濃厚に宗教的・祭儀的色彩を帯びるものであったし,この内在的伝統は今日もなお何らかの形で生き続けていると考えることができるだろう。だが演劇史的にみて,そのような〈宗教性〉を帯びた演劇が最も直接的・典型的な形で隆盛となったのは,中世ヨーロッパにおけるさまざまなキリスト教劇(典礼劇,受難劇,聖史劇,神秘劇,奇跡劇など)の場合であり,今日,〈宗教劇〉という語が用いられる場合に,固有名詞的にこれらを総称していうのが普通である。 中世ヨーロッパにおけるキリスト教宗教劇は,概括していえば,イエス・キリストの生誕,受難,復活などのそれぞれの場面や,それら場面の連続,あるいはその生涯の全体,また,使徒や聖者の言行,さらには旧約聖書中の物語,エピソードなどを劇化したものであるが,それはもともと,10世紀初めころに,復活祭典礼の交誦(こうしよう)tropusから発生したといわれている。…
※「奇跡劇」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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