日本大百科全書(ニッポニカ) 「ボブスレー」の意味・わかりやすい解説
ボブスレー
ぼぶすれー
bobsleigh
前方にハンドル、後方にブレーキを備えた鋼鉄製のそりのこと。また、ボブスレーで氷上コースを滑走しその速さを競い合う競技においては、そりの名称そのものが競技名にもなっている。
ボブスレーbobsleighの名前の由来は、スピードが増すにつれて選手の上体が前後左右に振れる(ボブbob)そり(スレーsleigh)ということから名づけられたとされる。発祥の地はスイスのアルプス地方で、ウィンター・リゾートを訪れる富裕層の遊びから始まり、競技性を帯びたものに発展していった。そして、初期のそりは木製であったが、競技トラックの難易度があがったことによるスピードの増加に伴い、金属製のものに変化していった。滑走中の最高速度は時速140キロメートルを超えるため、「氷上のF1(エフワン)レース」ともよばれているスポーツである(F1は自動車レースの最高峰フォーミュラ1の略)。1923年に創設された国際ボブスレー・トボガニング連盟(FIBT:Fédération Internationale de Bobsleigh et de Tobogganing)がこの競技を統括する国際連盟である。
オリンピック種目としては、1924年の第1回冬季オリンピック・シャモニー・モンブラン大会(フランス)から行われている競技で、当初は男子4人乗り種目だけであった。しかし、1932年の第3回レーク・プラシッド大会(アメリカ)より男子2人乗りが加わり、また、2002年の第19回ソルト・レーク・シティ大会(アメリカ)からは女子2人乗りも加わって、全3種目の競技として今日に至っている。日本は1972年(昭和47)の第11回札幌(さっぽろ)大会より出場している。
当初は自然の地形を利用したコースで競技が行われていたが、スピードの増加に伴い、現在各種の国際大会が行われている会場は、サン・モリッツ(スイス)を除き、すべて人工凍結トラックになっている。また、すべての競技トラックは、その長さ、斜度、カーブの数や形状等が異なっており、一つとして同じトラックはない。
競技用具としては、鋼鉄製のシャーシ(車台)の前部にハンドル、後部にブレーキをつけ、選手の安全を考慮し、後部乗り口を除く周囲がカーボン等のカバーで覆われているそりを使用する。そりの前部と後部はセパレーターにより異なる動きができる構造になっており、カーブ出入口周辺での滑走がスムーズにできる。そして、そりの下部にはランナーとよばれる氷と接するブレード(刃)が4か所についている。
選手は、静止したそりを力強く押し出し、加速させながらボブスレーに飛び乗る。その後、パイロット(操縦者)はボブスレーを操縦し、ブレーカー(制動手)は空気抵抗を減らすために低い姿勢でそり内に体を沈め、ゴールと同時にブレーキを引いてそりを止める役目を担う。4人乗りの場合は、さらに2人が始動時にそりを押すプッシャーとして、パイロットとブレーカーの間に加わる。
100分の1秒単位で速さを競うこの競技の勝敗の鍵(かぎ)を握る要素は三つあり、その一つ目はボブスレー本体とランナーを中心とした素材(マテリアル)の性能である。ボブスレー開発に国家プロジェクトとして取り組んでいる国もあれば、有名自動車メーカーが莫大(ばくだい)な資金提供をして開発している国もある。二つ目は初速(スタートタイム)をいかに速くするかということである。そのためには大型で瞬発力とスプリント力を兼ね備えた選手の発掘・育成が重要である。三つ目の要素はパイロットの操縦能力である。この三つの要素が総合的にもっとも優れているチームが勝者となっている。
[山夲忠宏]