日本大百科全書(ニッポニカ) 「ボルヘス」の意味・わかりやすい解説
ボルヘス
ぼるへす
Jorge Luis Borges
(1899―1986)
アルゼンチンの詩人、作家。ブエノスアイレスの裕福な家庭に生まれ、幼いころから父親の薫陶を受けてイギリスの文学書に親しむ。1914年、家族とともにヨーロッパに移住して勉学に励む一方、当時の前衛的芸術運動の洗礼を受ける。21年に帰国のあと、ブエノスアイレスの風物詩集『ブエノスアイレスの熱狂』(1923)、『サン・マルティンの手帖(てちょう)』(1929)などにより詩人として認められる。その後、散文に精力を注いだが、該博な知識と大胆な想像力とがみごとに融合し、作品には幻想的短編集『伝奇集』(1944)、『エル・アレフ(不死の人)』(1949)、また博引旁証(ぼうしょう)の評論集『論議』(1932)、『永遠の歴史』(1936)、『続審問』(1952)などがある。「世界史とはいくつかの隠喩(いんゆ)の歴史である」という作者のことばからもうかがえるように、有限のなかに無限と反復の観念を持ち込み、独自の文学的宇宙を築き上げる。その後も詩文集『創造者』(1960)、詩集『他者と自身』(1967)、『幽冥礼讃(ゆうめいらいさん)』(1969)、『群虎黄金』(1972)、短編集『ブロディーの報告書』(1970)、『砂の本』(1975)、あるいは『ボルヘス講演集』(1979)、評論集『七夜』(1980)などの著作を発表している。
[木村榮一]
『中村健二訳『悪党列伝』(1976・晶文社)』▽『中村健二訳『異端審問』(1982・晶文社)』▽『柳瀬尚紀訳『幻獣辞典』(1974・晶文社)』▽『渋澤龍彦他著『ボルヘスを読む』(1980・国書刊行会)』▽『篠田一士訳『ラテンアメリカの文学1 伝奇集』(1983・集英社)』