ニーチェ最晩年の思想を表すものとして有名な用語。〈永遠回帰〉とも言う。ニーチェはヨーロッパが依拠してきたいっさいのものを--主体や意識や理性という概念も,科学や宗教や民主主義も--生の実相から離れた虚偽であると看破した。これらの背後にあるプラトン主義やキリスト教も実はニヒリズムの発現でしかないとする彼にとって,唯一の実在は,生成の全体としての自然であり,生の唯一の原理は〈力への意志〉となる。近代的な理性の歴史とその進歩信仰は単なる幕間劇としてその意義を失い,存在の全体の根本性格は無限の時間の中での有限な〈力への意志〉の戯れ,つまり永劫回帰であると彼は言う。無限の時間の中での有限な組合せである以上,一度あったことは必ずまた,いや無限回にわたって,しかもそうした認識の発見も無限回にわたって繰り返されるとされる。ニーチェが1881年夏,アルプス山中での散歩の途上,突如として稲妻のごとくこの思想に襲われた話は有名である。やがて彼は《ツァラトゥストラ》において,この思想を体現する超人への転生の物語を書くことになるが,こうした思想全体の背後には,理性への不信,歴史への倦怠という世紀末の時代精神が認められる。なおエリアーデも《永遠回帰の神話》(1949)などで,伝承文化における祖型への回帰(祭祀における祖先や神々の偉業の再現)や,暦年的時間の周期(聖なるものとの交わりによる転換を告げる新年のような年中行事)における回帰の思想の意義を,近代的理性の歴史中心主義に対峙させて論じている。
→輪廻
執筆者:三島 憲一
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…《華やぐ知慧》には批判的解体に伴うペシミズムから新たな晴朗さへの回復がはっきりと認められる。この時期の81年,ニーチェはスイス・アルプスのシルバプラナ湖畔で永劫回帰の覚知に達し,いっさいが〈力への意志〉である以上,宇宙と歴史の変動は永遠に自己回帰を続ける瞬間からなっているとの思想を得ている。
[《ツァラトゥストラ》とそれ以後]
翌1882年にはザロメとの不幸な恋愛があったが,翌年初頭,ジェノバ郊外のポルトフィノで《ツァラトゥストラ》の着想を抱き,彼の言によれば,“嵐のような”筆の運びでまたたくまに第1部が完成した。…
※「永劫回帰」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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