改訂新版 世界大百科事典 「ボントック族」の意味・わかりやすい解説
ボントック族 (ボントックぞく)
Bontocs
フィリピンのルソン島北部山岳地帯のマウンテン州を中心として居住するプロト・マレー系の民族。マウンテン州(州都ボントック)の人口は9万4096(1975)で,このうちボントック語を母語とする住民は3万2800(34.9%)である。ボントック族は首狩り,勲功祭宴,雛壇耕作,動物供犠,巨石記念物の建立,頭蓋崇拝などの文化特性から,インド北東部のナーガ系諸族,東インドネシアのニアス島民などとともに,いわゆる東南アジアの巨石文化複合を共有すると考えられる。主たる生業は雛壇耕作による水稲の栽培で,タロイモ,ヤムイモ,ダイズ,インゲンマメなども栽培し,水牛,豚,鶏,犬などの家畜も食料とする。州都ボントックに約5000人が居住するほかは,平均人口1000人ほどの集村形態をとる村落ごとに生活している。村落には聖樹の森,石積みを施したアトatoと呼ぶ男子集会所,オロッグologという娘宿をもち,政治的,儀礼的,地理的な単位をなしている。男子集会所は未婚男子と壮年男子の宿泊所であり,かつては首狩りの宣戦,講和などを行う単位であった。豊穣儀礼,イニシエーション儀礼などもアト単位で行う。動物供犠を伴う複雑な儀礼が発達し,とくに一連の婚姻儀礼では水牛を含む大規模な動物供犠が行われる。村落領域内の山林は分割され,始祖の全子孫によって共有される。伝来の水田,装身具,壺などは私有財で,父から長男に,母から長女に相続される両系相続を理念とする。ただし子どもが一方の性にかたよれば,父から長男に,母から次男に相続させることも可能である。夫婦は結婚後も別財を貫徹し,子のない場合,夫は自己の血族から,妻も自己の血族から養子をとり,それぞれ自己の私有財を相続させる。このことは相続慣行において,夫婦紐帯に対して血縁紐帯が卓越することを示している。
執筆者:合田 濤
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報