改訂新版 世界大百科事典 「男子集会所」の意味・わかりやすい解説
男子集会所 (だんししゅうかいじょ)
部族社会および文明社会の村落において,男たちが政治や宗教的な営みの中心とする場所のことで,単なる広場から壮大な舎屋まで,当該文化の程度や特性によってさまざまのものがある。メラネシアや西アフリカには,男子が女子供を秘儀によって排除する秘密結社ないし男子結社が発達しているが,それらは呪術的な彫刻や装飾を施したりっぱな男子舎屋をもっている。他方,年齢集団がつよいインド東北部のアッサム地方のように,青年男子の若者宿が成人男子すべての集会所になっている場合も多い。一般に女子の立入りは厳禁だが,北米インディアンのようにクラブ化した秘密結社の集会所では,このタブーは緩んでいる。秘密結社や年齢集団が存在しない部族社会でも,祖霊やなんらかの神霊が宿る場所が祭儀場であるとともに,男たちの政治集会の場で,ときには踊りやくつろぎの広場となることもよくみられる。こうした所にはしばしば大きな立石や石壇があって,巨石文化複合との関連も考えられる。ベトナムのトンキン地方の村落には亭(ディン)という集会所があるが,この建物には村の守護神(土地神)の祭壇があり,そこが村落生活の中心でもある。そこで村集会が開かれるし,裁判も行われる。集会所のこのような祭政一致の機能は,日本の場合でもみられ,例えば近畿を中心に西日本に分布する神社祭祀組織である宮座では,現在も若干のこっているように,村の〈会所〉が神社の境内にあるのが古いかたちであった。座衆が当番制で宮世話をする当屋制は元来,村世話の一部であったとみてよい。そして行政の場が氏神=産土(うぶすな)神をまつる場所でもあったのである。朝鮮南部の村落には通常,集落の最も眺めのよい場所に会館(フェーガン)とよぶ集会所がある。ここはおおむね40歳以上の男たちが何かにつけ集まっては歓談する所であって,部落祭である堂祭(タンチェ)もここに集まった各戸を代表する男たちの討議によって,祭官の選定や祭儀細目が決められるのである。ヨーロッパはキリスト教会の影響がつよく,上例のような形態のものは見いだしにくいが,一つ興味深いのは,例えばドイツ語の宿屋〈ヘルベルゲ〉は,〈ヘル〉に男の意味があるように,本来は男子集会所を意味したことである。またイギリスのイン(宿屋)にも,女子を絶対に入れない部屋があるし,同国のクラブが一般に女人禁制で閉鎖的なこともよく知られている。いずれにしろ,部族社会でも文明社会でも,男子集会所にはこのような共通の一般的性格が認められるのである。
→男子結社 →年齢集団
執筆者:高橋 統一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報