真空中では磁束密度B,電場Eの間には,真空の誘電率および透磁率をそれぞれε0,μ0,時間をtで表すと,の関係がある(マクスウェルの方程式)。したがって,電場および磁場のエネルギー密度,の時間変化は,
と表される。とすると,Sの発散,すなわちdivSは,電磁場のエネルギーの減少-∂u/∂tを表していることになる。ガウスの定理を使うと,となるから(SnはS上でのSの法線成分),ある曲面Sにかこまれた体積V中のエネルギーの減少-∂u/∂tは,この体積の表面上でのSnの積分に等しくなる。この意味でSはエネルギーの流れを表しており,このSをポインティングベクトルと呼ぶ。イギリスの物理学者ポインティングJohn Henry Poynting(1852-1914)によって導入されたことからこの名がある。
執筆者:清水 忠雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
1884年にイギリスのポインティングが与えた電磁場におけるエネルギーの流れを示すベクトル。電場Eと磁場Hとが、空間のある同じ位置r、同じ時刻tで共存する場合には、ベクトルS(r,t)=E(r,t)×H(r,t)を考えることができる。このベクトルをポインティング・ベクトルという。ポインティング・ベクトルの物理的意味は、ある閉曲面を考えて、その面上または面内の体積でポインティング・ベクトルを積分したときに初めて現れる。すなわち、表面積分
は、考えている閉曲面の表面を通って、単位時間当りに流れる電磁場のエネルギーを表す。積分値の符号によって、閉局面から流出するエネルギーと区別することができる。また、同じ閉局面で囲まれた領域での体積積分
は、この領域内に存在する電磁場の運動量ベクトルを表す。
電磁場のエネルギーや運動量は、けっして抽象的なものではなく、物質の力学的なエネルギーや運動量と同等の物理量である。すなわち、荷電粒子と電磁場とが相互作用している系においては、荷電粒子のエネルギーや運動量ばかりでなく、電磁場のエネルギーや運動量を考慮に入れて初めて、系全体の物理現象が正しい物理法則に従う。
[安岡弘志]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…これは,単位時間に単位面積を通過する光子数にhνを乗じたものに等しい。またS=E×Hで定義されるベクトルSをポインティングベクトルといい,Sの方向が光の進行方向,その大きさが光の強度を与える。透磁率と誘電率とがμとεとである物質中では,放射インピーダンスは光の速さはとなるが,光の振動数はきわめて大きいので,通常の物質ではμ=μ0としてよく,と表せる(ただし,この場合εは光の振動数に依存すると考えなければならない)。…
※「ポインティングベクトル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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