日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ポインティング・ベクトル
ぽいんてぃんぐべくとる
Poynting's vector
1884年にイギリスのポインティングが与えた電磁場におけるエネルギーの流れを示すベクトル。電場Eと磁場Hとが、空間のある同じ位置r、同じ時刻tで共存する場合には、ベクトルS(r,t)=E(r,t)×H(r,t)を考えることができる。このベクトルをポインティング・ベクトルという。ポインティング・ベクトルの物理的意味は、ある閉曲面を考えて、その面上または面内の体積でポインティング・ベクトルを積分したときに初めて現れる。すなわち、表面積分
は、考えている閉曲面の表面を通って、単位時間当りに流れる電磁場のエネルギーを表す。積分値の符号によって、閉局面から流出するエネルギーと区別することができる。また、同じ閉局面で囲まれた領域での体積積分
は、この領域内に存在する電磁場の運動量ベクトルを表す。
電磁場のエネルギーや運動量は、けっして抽象的なものではなく、物質の力学的なエネルギーや運動量と同等の物理量である。すなわち、荷電粒子と電磁場とが相互作用している系においては、荷電粒子のエネルギーや運動量ばかりでなく、電磁場のエネルギーや運動量を考慮に入れて初めて、系全体の物理現象が正しい物理法則に従う。
[安岡弘志]