発散(読み)ハッサン(英語表記)divergent
divergence

デジタル大辞泉 「発散」の意味・読み・例文・類語

はっ‐さん【発散】

[名](スル)
内部にたまったものが外部へ散らばって出ること。また、外部へ散らばり出ること。「ストレス発散させる」
一点から出た光が広がって進むこと。
数学で、無限数列無限級数関数の値が、極限で有限値に近づかず、正あるいは負の無限大となるか、振動するかになること。⇔収束
[類語]放散散布

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精選版 日本国語大辞典 「発散」の意味・読み・例文・類語

はっ‐さん【発散】

〘名〙
① 人が、自分の内部にたまった、ある種の力、熱、気力気持などを外に出したり、まき散らしたりすること。
※全九集(1566頃)六「其にも愈すは風を発散して猶を愈すは調中丸を用べし」
※彼の歩んだ道(1965)〈末川博〉四「青壮のエネルギーをどういう方向で発散させるかが」 〔成公綏‐嘯賦〕
② 物の内部にあるものが外へ出て空気中に広がること。また、蒸発すること。「加熱すると殺虫成分が発散する」
③ 数学で、級数の和や積分の値が無限大または不定になること。数値の無限系列が、ある一定の有限値に定まらないこと。〔数学ニ用ヰル辞ノ英和対訳字書(1889)〕
光線などが広がりながら進むこと。〔物理学術語和英仏独対訳字書(1888)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「発散」の意味・わかりやすい解説

発散 (はっさん)
divergent
divergence

数学用語。数列の発散とベクトル場の発散の二つがある。

無限数列{xn}が収束しないとき,この数列は発散するという。とくに実数列{xn}において,nを限りなく大きくするときxnが限りなく大きくなるならば{xn}は正の無限大に定発散するといって,と書き,nを限りなく大きくするときxnが負になってその絶対値が限りなく大きくなるならば{xn}は負の無限大に定発散するといって,と書く。収束と定発散の場合は,極限があるという。極限がない数列は不定発散する,または振動するという。例えば数列{n},{-n}は定発散であり,数列{(-1)n},{(-1)nn}は不定発散である。無限級数が収束あるいは発散するとは,その部分和の数列がそれぞれ収束あるいは発散することである。
収束

空間に一つのベクトル場vが与えられているとする。(xyz)を空間の点の直交座標とし,この座標系に関するvの成分を(uvw)とするとき,と書いて,これをベクトル場vの発散またはダイバージェンスという。divv=0は,物理的にはわき出しも吸込みもないことを表す。また,vが流体の速度分布を表しているときは,divv=0はその流体が非圧縮性をもつことを意味する。
ベクトル解析
執筆者:

海洋や大気の大規模現象を扱うときは,発散ということばは水平発散,すなわちを意味することが多い(ただしこの量が負の値を取る場合は発散の代りに収束というのがふつうである)。ここでxyは水平方向の直角座標,(uv)は(xy)方向の海水または空気の流速である。したがって海洋や大気中にわき出しや吸込みがない場合,すなわち,でも\(\frac{∂w}{∂z}\)が0でなければ発散は生ずることになる。\(\frac{∂w}{∂z}\)は鉛直方向の流速こう配であるから,水平発散は上昇流や下降流と密接に結びついている。例えば,海面のある場所で発散があれば,そこでは下のほうから海水が上昇していることを示している(これを湧昇という)。逆にある場所に海水が集まって収束があれば,そこでは海水の沈降が起こる。海面上でごみなどの小さな浮遊物が集積しているところは海水の収束する位置と一致することが多い。大気においても同様に地表での上昇流域では収束が,反対に下降流域では発散が生ずる。大気においても海洋においてもその発散(収束)の量はごくわずかであるが,物理的にはたいへん重要な役割を果たしている。例えば大気中の上昇流や下降流は熱量や水蒸気の運搬を伴って大気のじょう乱の原因となり天気に影響するし,海水の湧昇は深海から低温で栄養塩に富んだ海水を補給するので漁場を形成する要因となる。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「発散」の意味・わかりやすい解説

発散
はっさん
divergence

(1) 級数あるいは数列 Sn(n=1,2,…) が n を十分大きく選ぶとき,ある一定値 S に任意に近い値に近づくとき収束すると呼び,収束しないとき発散するという。また正項級数については,和が +∞ になるとき,( +∞ に収束するという言い方もあるが) 通常は発散するという。 (2) ベクトル量 U=(UxUyUz) が座標 (xyz) の関数であるとき ∂Ux/∂x+∂Uy/∂y+∂Uz/∂z を divU と記し,U の発散という。 (→ダイバージェンス ) (3) 一点を通った光線束が広がってゆく状態をさす。

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普及版 字通 「発散」の読み・字形・画数・意味

【発散】はつさん

もらす。

字通「発」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の発散の言及

【眼筋】より

…これに対し,運動方向と逆の作用をもつ筋群(上記の場合は右眼の内直筋と左眼の外直筋)を拮抗筋という。眼球の非共同運動には輻輳(ふくそう)convergence(収斂(しゆうれん)ともいう)と開散divergence(発散ともいう)の2型がある。輻輳は眼前の一点に視線を集中させる機能で,ふつう両眼の内直筋の収縮によって行われる。…

【目∥眼】より

…近いところを見るときには輻湊とともに調節が起こる。これに対して輻湊していた両目の視線を開くことを開散divergenceという。外眼筋は動眼神経,滑車神経および外転神経によって支配されている。…

【級数】より

…また〈等差数列〉 〈等比数列〉の項目にも述べられているように, 与えられた級数の部分和の数列{sn}において,nが限りなく大きくなるときsnがある定まった値sに限りなく近づくならば,すなわち数列{sn}が極限値sをもつならば,その級数は収束して和sをもつ,またはsに収束するといい,このことをと書く。それ以外の場合には級数は発散するという。例えば,(1)からわかるように,であるが,は発散する。…

【極限】より

…例えば数列は収束し,極限値はそれぞれ0,1である。収束しない数列を発散数列と呼ぶ。それらのうち,(1)1,2,22,23,……,2nのように,nが大きくなるに従って第nanが限りなく大きくなるとき,この数列は正の無限大に発散するといい,とかく。…

【数列】より

… 数列{an}において,nが限りなく大きくなるとき,anが一つの定まった値cに限りなく近づくならば,この数列は極限値cに収束するといい,またはxnc(n→∞)と書く。もしも,nが限りなく大きくなるとき,anが限りなく大きくなるか,または-anが限りなく大きくなるならば,この数列はそれぞれ正の無限大に定発散する,または負の無限大に定発散するといい,このことを,それぞれまたはと書く。その他の場合は,数列は不定発散する,または振動するという。…

【ベクトル解析】より

S上の点でのベクトル場Fn成分をFnと書くことにし,なる面積分を定義して,これをSを通過するベクトル流vector fluxという。
[勾配,発散,回転]
 スカラー場φ(x,y,z)が与えられたとき,(∂φ/∂x,∂φ/∂y,∂φ/∂z)を成分とするベクトル場をφの勾配,あるいはグラディエントgradientと呼び,▽φ,またはgradφで表す。ベクトル場F=(Fx,Fy,Fz)に対して,で定義されるスカラー場divFFの発散といい,またx,y,z方向の単位ベクトルをそれぞれijkとするとき,で定義されるベクトル場rotF(curlFとも書く)をFの回転という。…

※「発散」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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