日本大百科全書(ニッポニカ) 「ポーラロン」の意味・わかりやすい解説
ポーラロン
ぽーらろん
polaron
固体内を電子が固体の変形を伴って運動する状態をいう。固体内に原子から離れた電子があると、その周りの原子(イオン)は電子から力を受けて位置を変え、電子の周囲には原子配列の変化、すなわち固体の変形が生じる。変形は電子が動くとそれについて移動するから、電子は固体の変形を伴って運動することになる。これがポーラロンである。クッションの上に重い玉を乗せると、クッションがくぼむ。玉が転がると、くぼみもそれについて動く。ポーラロンは、このクッションの上をくぼみを伴って転がる玉のようなもの、と思えばよい。
塩化ナトリウム(食塩、NaCl)のような固体では、原子が正負のイオン(Na+,Cl-)になって結合している。このような固体をイオン結晶という。イオン結晶では、電子とイオンがともに電荷をもつため、その間には強いクーロン力が働く。したがって、イオン結晶内を動く電子にはポーラロン効果が強く現れる。この場合には、電子の周囲に正・負イオンの変位による分極が生じ、電子は分極を伴って運動することになる。ポーラロンの名は、分極(polarization)を伴う粒子というところからきている。ポーラロンが運動するときには、固体の変形がいっしょに動くため、その見かけ上の質量は電子より重くなる。イオン結晶では2倍以上になることが多い。
[長岡洋介]