日本大百科全書(ニッポニカ) 「マイアサウラ」の意味・わかりやすい解説
マイアサウラ
まいあさうら
maiasaur
[学] Maiasaura peeblesorum
鳥盤目鳥脚類(ちょうきゃくるい)(亜目)エウオルニソポッド類(真鳥脚類)イグアノドン類Iguanodontiaイグアノドン上科Iguanodontoideaハドロサウルス科Hadrosauridaeエウハドロサウルス類Euhadrosauriaハドロサウルス亜科Hadrosaurinaeに属する恐竜。北アメリカの白亜紀後期、約7920万年~7060万年前の地層から産出した草食恐竜。カモノハシ竜の仲間。全長約9メートル。カナダとの国境近くのモンタナ州からマイアサウラの営巣地の跡が発見された。鳥類に似て集団で巣づくりをしていた。巣は塚状に盛り土されて囲まれ、隣の巣とは親の体長分の距離で隔てられていた。巣の中には25個ほどの卵が産み付けられており、卵の大きさはグレープフルーツくらいであった。巣の中からは化石化した植物破片などが多く発掘されたので、卵はたぶん腐食した植物の発酵熱で温められたと考えられている。孵化(ふか)直後の幼体は約35センチメートルの大きさで、肢(あし)の骨化が十分でなく、全長1メートルくらいになるまでは巣にとどまっていたらしい。すると、親が餌(えさ)を運ぶしかない。これは巣中に保存された幼体の骨からの推定であるが、そのくらいの幼体が巣の外にみつかった例はない。巣中の幼体の歯はすり減っているし、また巣中に幼体が発見された場合、卵の殻は例外なくこなごなに砕けているのは、生後すぐには巣を離れなかったためと思われる。巣立ちしてからもしばらくは親といっしょであったらしく、成体1体と幼体数体が同時に発掘されている。営巣地が何年も続けて使われたことは、地層中に何層準にもわたって発見されることからわかる。骨組織を調べると、幼体は恒温動物的で生後6~7年かけて全長6メートル以上に達するが、その後はゆっくりと成長し、変温動物的であったらしい。マイアサウラについてわかったもう一つの特徴は、食物を食べるために季節ごとに南北方向に1万頭以上の群れで大移動をしていたらしいということである。これは広大な範囲に存在するボーンベッド(多数の骨化石包含層)中の骨の同定に基づき推定された数字である。マイアサウラの属名の意味は「りっぱなお母さん」であるが、「子育て説」に対し、この恐竜の幼体の歯が磨耗していたのは卵の中で歯ぎしりをしていたためであるとして反論を唱える向きもある。しかし、マイアサウラの産状は、子育てや渡りなど恐竜の社会性を考えるきっかけをつくってくれたという意味で、きわめて重要である。
[小畠郁生]
『ジョン・R・ホーナー著、小畠郁生訳『子育て恐竜マイア発掘記』(1989・太田出版)』▽『佐藤哲、ネイチャー・プロ編集室構成・文『恐竜の行動とくらし5 マイアサウラ――恐竜も子どもをまもりそだてたのか』(1995・偕成社)』