改訂新版 世界大百科事典 「まつ毛」の意味・わかりやすい解説
まつ毛/睫 (まつげ)
eyelashes
一部の哺乳類の上下のまぶたに生えている毛のうち,まぶたの縁に沿ったものが,他の毛より長くなり,列を形成したもの。睫毛(しようもう)ともいう。たとえばネコ,イヌ,タヌキ,ハクビシンなどでは,まぶたの縁の毛のうち数本が散発的に他よりやや長いだけで列をなさず,まつ毛があるとはいえないが,ウサギでは,まぶたの縁の後半部の毛がやや長く伸びて,まつ毛といえるほどの短い列を形成する。まつ毛は目にごみが入るのを防ぐほか,日差しを避けるのにも役立つらしく,系統に関係なく,草原や砂漠に適応したものや,それぞれの系統のなかで最も進化したグループに発達する傾向がみられる。たとえば有袋類では,カンガルー,ワラビーではよく発達するが,コアラ,オポッサムなどにはない。霊長類ではキツネザル,メガネザルなどにはなく,オランウータンなどの類人猿ではよく発達する。オナガザル類は中間である。まつ毛が最も顕著なのはラクダ,ヌー,ローンアンテロープなどの偶蹄類のもので,きわめて長い毛が数列にわたって密生し,毛の房を形成するが,同じ偶蹄類でもインパラやシカではまつ毛は短く,あまり目立たない。ウシ,ブタ,ウマ,サイなどではこれらの中間である。ネズミ,リス,モルモット,ハリネズミ,ナマケモノ,アザラシ,イルカ,クジラなどにはまったくない。鳥類にもダチョウなどにはまつ毛に類似したものがあるが,羽毛の変形で,まつ毛と呼ぶことはできない。
執筆者:今泉 吉典
ヒトのまつ毛
ヒトでは上眼瞼と下眼瞼における前眼瞼縁の部位,すなわち眼瞼を包む皮膚と粘膜(眼瞼結膜)との境界部に2~3列をなして植立する。長さ6~8mmの比較的太い毛で,ふつう前方に向かうように湾曲して生える。上眼瞼のまつ毛は下眼瞼のそれよりも,やや長い。まつ毛は汗や雨水の進入を防ぐのみならず,眼球の表面に異物が達するのを防ぐうえに,かなりの役割を果たすものと考えられる。まつ毛の生え方が不規則になることを睫毛乱生というが,これによってまつ毛が内側に向かって生えたり,眼瞼が内反してまつ毛が内側を向くと,角膜に接触して刺激するようになる。このような状態を俗に〈さかまつ毛〉という。睫毛乱生は外傷やトラコーマの感染,眼瞼内反はやはりトラコーマや老化によって起こる。治療は,前者ではまつ毛の除去,後者では手術によって行う。
執筆者:山内 昭雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報