日本大百科全書(ニッポニカ) 「マナティー」の意味・わかりやすい解説
マナティー
まなてぃー
manatee
哺乳(ほにゅう)綱海牛目マナティー科に属する水生動物の総称。この科Trichechidaeの仲間は、大西洋沿岸の熱帯・亜熱帯域に1属3種が現存する。アメリカマナティーTrichechus manatusは、西インド諸島からメキシコ湾、ギアナ地方にかけての沿岸部に生息し、体長3.3メートル、体重500キログラムに達する大形種である。アフリカマナティーT. senegalensisは、アフリカ西岸のセネガルからアンゴラにかけて生息し、形態はアメリカマナティーに似ている。以上の2種は河川、河口、海水域ともにみかけられる。アマゾンマナティーT. inunguisは、アマゾン水系にのみ生息し、海に移ることはない。体長2.3メートル、体重200キログラム程度の小形種である。
マナティーは祖先をゾウと同じくし、第三紀始新世には陸上生活を営んでいたが、外敵を逃れて水中に移りすんだといわれる。体は水中生活に適した紡錘形でやや扁平(へんぺい)。前肢は胸びれとなりやや長く、左右で餌(えさ)を挟み口まで運ぶ。後肢はない。尾びれは大きくしゃもじ状の長円形で、これを上下にあおりゆっくりと泳ぐ。目は小さく、視力は弱い。外耳はなく、内耳は発達している。頭部は小さく、よく発達した上唇をもち、その周辺に太い触毛があり、これで餌を選別する。全身にまばらに細毛がある。頸椎(けいつい)骨は多くの哺乳類より1個少なく6個である。草食獣で、水辺のマングローブや水草、ホテイアオイを採食する。一般に夜行性で、性質はおとなしい。食肉の目的で乱獲され減少したため、現在はワシントン条約によって保護されている。近縁種には海産のジュゴンがあり、この種は人魚伝説のモデルとなったといわれる。
[園田成三郎]