G・J・メンデル以前の遺伝学説である融合説に対し、メンデルの遺伝の法則と染色体の挙動に裏づけされた遺伝様式に関する粒子説的概念をさす。メンデルの時代までは遺伝物質の本体が明らかでなく液体のようなものと考えられていた。この考えでは、一度異なる形質が混ざり合うとけっして元の形質がふたたび分離してくることはない。したがって、メンデルの最大の発見である分離の法則を説明することができない。分離の法則は、遺伝物質が粒子状のものであることを示す重要な法則であり、この法則の発見によって染色体の生物学的意義や遺伝子の概念を確立するうえで正しい方向が示された。しかし、変異を示す形質のなかには、多数の遺伝子によって決定されたり、環境の影響を受けやすいものがあり、メンデリズムの確立にはその後さまざまな紆余(うよ)曲折があった。
遺伝物質の本体であるデオキシリボ核酸(DNA)の構造が明らかになったのは1953年のワトソンとクリックの論文による。しかし、核酸自体が発見されたのは、メンデルの遺伝法則が発表された1865年と時を同じくしている。また19世紀前半にはT・H・モーガンの遺伝子の染色体地図作成に代表されるように、メンデリズムに基づいた優れた研究が行われ、遺伝物質解明への基盤はすでに熟していたといえる。メンデリズムは生物界全体に通用する遺伝の基本概念で、生物の進化を考えるうえでも不可欠である。
[髙畑尚之]
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