日本大百科全書(ニッポニカ) 「メントール」の意味・わかりやすい解説
メントール
めんとーる
menthol
単環性モノテルペンアルコールの代表的なもの。一般に、メントールといえば、はっか油から得られるl-メントール(はっか脳)をさすが、化学的には12個ある異性体の総称である。ハッカ特有の冷涼な香味を有しているのは天然および合成のl-メントールとd-メントールで他の異性体は冷涼な香味を有していない。天然はっか脳と合成のl-メントールは化学的には同一で、無色の針状結晶である。日本産和種はっか油はl-メントールの供給源として世界のハッカ需要をまかなっていたが、現在はブラジルおよび中国産はっか脳と日本、ドイツ、アメリカで生産される合成品が市場を支配している。
l-メントールの代表的製法は次の3種類である。
(1)d-シトロネラールからの製法 シトロネラ油の分留で得られるd-シトロネラールにルイス酸を加えて加熱すると環化してイソプレゴールとなる。これに溶剤を加えて深冷分離すると純粋なl-イソプレゴールの結晶が収率よく得られる。これをニッケル触媒を用いて高圧水添すると、純粋なl-メントールが収率よく得られる。
(2)チモールからの製法 チモールの接触水添によりd、l-メントールとし、異性体分離、光学分割を行い、純粋なl-メントールとする。
(3)不斉合成法 ミルセンにリチウムとジエチルアミンを反応させると、ジエチルゲラニルアミンができる。これを(S)-BINAP-Ru錯体触媒を用いて不斉異性化反応を行うとシトロネラールエナミンを生じ、これを加水分解して純粋のd-シトロネラールとする。これを臭化亜鉛で閉環し、l-イソプレゴールに導き、水素添加によってl-メントールを製造する。l-メントールは医薬品(貼(は)り薬、軟膏(なんこう)、エアゾール)、タバコ、歯磨剤、育毛剤、チューインガム、キャンディー、アイスクリーム、飲料、化粧品などに用いられる。
[佐藤菊正]