翻訳|ice cream
乳製品の一種。クリーム、牛乳または乳製品(濃縮乳、加糖練乳、粉乳、無塩バターなど)を主原料として、鶏卵、砂糖、香料または果実加工品の香味成分、色素、ゼラチンや植物ガムのような乳化安定剤を配合し、攪拌(かくはん)して気泡を含ませながら冷却凍結したもので、デザートや間食などに用いられる栄養価の高い食品である。
[新沼杏二・和仁皓明]
アイスクリームの原形は、昔、氷室(ひむろ)の雪や氷に、酒類、蜜(みつ)、果汁や果肉などを混ぜてつくった冷たい飲み物と考えられ、古代から東西にその記録がある。とくにヨーロッパにこれを伝えるもとになったのは、イスラム世界に広く流行していたシャルバード(シャーベットの語源)で、それが16世紀ごろからイタリアで、氷に寒剤(チリ硝石または食塩などの氷点降下剤)を混ぜて凍結させる方法が考案されて普及した。その後フランスに渡り、しだいにヨーロッパの上流社会の食卓のデザートになったが、その過程で、従来の酒類や果汁などを主原料にしたものに、乳成分を主とするものが現れ、シャーベットとアイスクリームに分化して発展した。
1848年にアメリカで便利な家庭用の回転式ハンドフリーザーの特許が認められ、それがその後1世紀にわたって、家庭への普及に一大旋風を巻き起こした。また工業的生産もアメリカが先行し、1851年にボルティモアのヤコブ・フッセルが製造販売を始めた。その後1902年には能率のよい横型フリーザーが発明され、さらに1904年セントルイス万国博覧会がその発展の契機となった。そのとき初めてアイスクリーム・コーンが会場に現れ、今日の流行をみるに至った。
日本では、アメリカを訪問した遣米使節新見正興(しんみまさおき)一行の日記に、1860年(万延1)3月24日初めて「アイスクリン」を食べたという記録がある。1869年(明治2)6月に横浜の町田房造(ふさぞう)が馬車道通り常盤(ときわ)町五丁目で販売したのが最初で、その後1888年に東京・銀座の凮月堂(ふうげつどう)米津、1899年に東京・銀座の資生堂が発売するに及んで一般に普及し始めた。
[新沼杏二・和仁皓明]
主原料のクリーム、牛乳または乳製品に、鶏卵、糖類、乳化安定剤を加え、目的とする乳脂肪分、乳固形分、甘味度となるように調合してベースミックスをつくる。これを約60℃に加温したのち、脂肪の分散をよくするため均質機にかける。次に殺菌(63℃30分または75℃15分)し、2~5℃まで冷却する。香料を加え4~12時間冷却したまま保持する。この工程でゼラチンなどの安定剤がよくなじみ、適度の粘性を与えて舌触りをよくする。凍結は2段階に分かれ、最初は攪拌して空気を含ませながら、零下5~同10℃ぐらいまで凍結させる。この段階で食用に供するものをソフトアイスクリームという。一般に販売されているものは、その後カップ、コーンなどの容器に充填(じゅうてん)し、零下30~同40℃の硬化装置でより低温に凍結したものである。最初の凍結で含ませる空気の量をオーバーランといい、アイスクリームの滑らかな口溶けを左右する。
家庭でつくるには、家庭用冷蔵庫のフリーザーを利用する。3~4人前として、卵黄2個、砂糖1/2カップ、牛乳1カップ、クリーム1/2カップ、香料(バニラエッセンス)少々、ゼラチン小さじ1杯を用意。卵黄をよくほぐし、砂糖、クリーム、牛乳を加えてよく攪拌する。とろ火で加温し、あらかじめ3~4倍の水で煮溶かしたゼラチンを加える。やや粘度が出たところで、火から下ろし水で冷やす。香料を加え、1時間ほど冷蔵庫に入れ、製氷皿などの金属容器に移してフリーザーに入れる。30分に1回ぐらいずつ固まり加減をみながら泡立て、最後にそのまま凍結させる。インスタントコーヒー、ココア、果汁、ジャムなどを加えると各種のバラエティーを楽しめる。
[新沼杏二・和仁皓明]
日本の食品衛生法規では、成分上、乳固形分と乳脂肪分の含有量で規格と名称を分類している。「アイスクリーム」は乳固形分15%以上、うち乳脂肪分8%以上。「アイスミルク」は乳固形分10%以上、うち乳脂肪分3%以上。「ラクトアイス」は乳固形分3%以上となっていて、いずれも容器に表示が義務づけられている。
形態上は、ソフトアイスクリームとハードアイスクリームに大別され、ソフトアイスクリームはコーンに盛られて、おもに外食産業で供されている。ハードアイスクリームはカップ、スティック、最中(もなか)、コーンなど多様な包装容器に充填され、小売りに供されている。材料別には、バニラ・フレーバーのものがもっとも一般的で、チョコレート、ストロベリー、ナッツなどを加えたものも好まれている。
なお、アイスクリームのミックスの水分を粉乳乾燥機で除去し、粉末状にしたものをアイスクリーム・ミックスパウダーといい、これに水を加えると手軽にベースミックスをつくることができる。
[新沼杏二・和仁皓明]
牛乳または乳製品を主原料とし,これに糖類,安定剤,乳化剤,香料その他を加えて凍らせた氷菓子。原料の配合比など一定しないため,日本では食品衛生法によってアイスクリーム類の成分規格と呼称が表のように定められている。また,乳固形分を含まないものは,氷菓の名で区別されている。原料を混合したものをアイスクリームミックスと呼び,これをフリーザーで凍結させるさい,かくはんしながら空気を送り込んで細かい気泡を多く含ませて容積を増量させる。これをオーバーランといい,この操作によって口あたりが滑らかで刺激の少ない冷たさが得られるようになる。
アイスクリームの原型にあたる氷菓は,3000年以上も前に中国で作られたと13世紀にマルコ・ポーロが伝えているが,天然の雪や氷を利用して食物を冷やすことは古くから各地で行われていた。ヨーロッパで果汁やブドウ酒を入れた氷菓が作られたのは,硝石を水に溶かし熱を奪って冷却する方法を16世紀初めにイタリアで発明してからである。1533年にはフィレンツェのメディチ家の娘カトリーヌがアンリ2世のもとに嫁いださい,連れて行ったコックによってフランスに伝わったが,製法は100年以上もの間,宮廷内で秘法とされていた。初めて市販されたのは,1660年にパリに店ができてからで,たいへんな旋風を巻き起こし,76年には同業組合がつくられた。これまでのものは,シャーベット状で,17世紀から18世紀にかけての改良によって空気と脂肪の溶けあったクリーム状のものとなった。18世紀にはアメリカへ伝わり,1851年にはJ.ファッセルが世界で初めてアイスクリームの製造卸売を始めたという。ソフトクリームを入れる円錐形のコーンカップも,1904年のセントルイス万国博の会場にいたアイスクリーム売によって発明されたというが,同様なものはヨーロッパにもあった。日本人で記録上初めてアイスクリームを口にしたのは,1860年(万延1)に渡米した幕府の遣米使節の一行であった。彼らはこの珍奇にして美味なるものに接して驚倒したらしい。正使新見豊前守の僕従であった柳川兼三郎は,その〈アイスクリン〉の美味をたたえ,〈是を製するには,氷を湯にてやわらかくなし,其後物の形へ入れ,又氷の間へ入れて置く時は氷のごとくなると云ふ,尤も右の氷をとかしたる時なま玉子を入れざれば再び氷らずと云ふ〉と,ほほえましい文章を書き残している。1869年(明治2)に横浜で初めて売り出されたが,まだ外人相手のもので,一般に普及するにはそれから30年ほどかかった。大正に入ると挽茶入りアイスクリームなども作られた。1920年に富士アイスクリーム,続いて明治乳業が工業生産を開始,デパートや駅での販売も始められた。第2次大戦後アイスクリームの消費は大幅に伸び,生産高は57-62年の5年間で約3倍を示した。消費量の中ではラクトアイスと氷菓が70~80%を占めているが,高級品の伸びが著しい。
執筆者:杉内 万里子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…増量割合を示す言葉で,アイスクリームおよびバターの製造時に用いられる。(1)製造されたアイスクリームの容積は,原料のアイスクリームミックスの容積より多くなる。…
※「アイスクリーム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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