日本大百科全書(ニッポニカ) 「メンミ」の意味・わかりやすい解説
メンミ
めんみ
Albert Memmi
(1920―2020)
貧しいユダヤ人の子としてチュニジアの首都チュニスに生まれ、フランスに帰化した作家・社会学者。アルジェ大学、およびパリ大学に学ぶ。第二次世界大戦中の1943年には、強制労働を体験している。アラビア語を母国語としながらも、フランス語でものを書くもっとも重要な作家の一人で、1950年代末からフランスで教職に就いた。国境、文化、言語を越境する、あるいは越境せざるをえなかった彼の存在そのものが、さまざまな意味で文化的な象徴になっている。植民地における現地人(チュニジアはかつてフランスの植民地だった)、反ユダヤ主義社会におけるユダヤ人、ヨーロッパ文明が支配する世界でのアフリカ人という三重の困難、あるいは疎外がメンミの出発点となった。処女作であり、きわめて自伝的な小説である『塩の柱』(1953)にはそれがよく表れている。『さそり』(1969)は、架空の告白という形式のもとに、支配される者の従属をめぐる考察を展開している。彼の理論的な著作もやはり、人間の疎外、差別と抑圧、支配と隷属などを主要なテーマにしていた。サルトルが序文を付した『被植民者の肖像』(1957)をはじめ、『あるユダヤ人の肖像』(1962)、『ユダヤ人とアラブ人』(1975)、『幸福の訓練』(1994)などが代表作である。またフランスにおけるマグレブ諸国に関する研究の発展はメンミに負うところが大きい。彼がパリの社会科学高等研究院で教鞭(きょうべん)をとっていた際に、マグレブ諸国の文化、とりわけ文学に関する社会学的な研究の基礎が据(す)えられたのである。
[小倉孝誠]
『渡辺淳訳『植民地――その心理的風土』(1959・三一書房)』▽『白井成雄・菊地昌実訳『差別の構造――性・人種・身分・階級』(1971・合同出版)』▽『前田総助訳『塩の柱――あるユダヤ人の青春』(1978・草思社)』▽『菊地昌実・白井成雄訳『あるユダヤ人の肖像』(1980・法政大学出版局)』▽『菊地昌実訳『イスラエルの神話――ユダヤ人問題に出口はあるか』(1983・新評論社)』▽『菊地昌実・白井成雄訳『人種差別』(1996・法政大学出版局)』