大天使ガブリエルが神からつかわされて,ナザレの一処女マリアのもとに現れ,彼女が救世主(メシア)を産むこと(処女降誕)を告げる場面。〈受胎告知〉〈お告げ〉ともいう。《ルカによる福音書》1章26~38節に記される。〈御使がマリアのところにきて言った,“恵まれた女よ,おめでとう,主があなたと共におられます。……あなたはみごもって男の子を産むでしょう。その子をイエスと名づけなさい”〉。この言葉にマリアははじめ不審に思うが,やがて答えて言う,〈“わたしは主のはしためです。お言葉どおりこの身に成りますように”〉。初期キリスト教時代以来聖告の場面はさらに外典書よりとられたモティーフを含むようになる。おもな外典書によると,神殿からヨセフの家にひきとられていたマリアはある日,井戸で水汲みしているとき,彼女を呼ぶ天使の声をきいた。天使の姿は見えなかったので彼女は急いで家にもどり,神殿にささげる布を織るため糸紡ぎをつづけた。そこへ天使が2度目に現れた。聖告がそこで,《ルカによる福音書》に語られているように起こった。
聖告の場面は,4~5世紀のカタコンベ壁画や石棺浮彫に,最も早い表現の例が見られる。東方美術ではもっぱら外典書に基づく構図がとられ,泉または井戸のかたわらにいるマリアと天使(象牙二連板,5世紀後半,ミラノ,など),または紡錘さおを手に座すマリアと天使(〈大司教マクシミアヌスの司教座〉の象牙浮彫,545~556,ラベンナ,など)によって表現された。一方西ヨーロッパの美術では,とくに13世紀以降,マリア信仰の隆盛にともない,また神秘主義思想の影響の下に,多様な表現形式が形成された。通常,本(聖書)を手に瞑想にふけるマリア(その前に祈禱台が置かれることもある)のかたわらに,突如ガブリエルが舞い降り立った場面として表現される。ガブリエルは神の使いとして棒,笏またはユリの花を携え,マリアに向かってうやうやしくひざまずく。聖霊の象徴として鳩が父なる神よりマリアの頭上に一直線に飛んでくる(マルティーニ,1333,など)。また,場面が室内や礼拝堂に設定される場合もある(フレマールの画家,1428ころ,など)。聖告はキリストによる贖罪の観念と結びつき,聖霊の光線に乗り十字架をかつぐ幼子イエスの姿がしばしば加えられた(ベルトラムの画家,グラボウの祭壇画,1379,など)。
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