モバイル放送(読み)もばいるほうそう(英語表記)Mobile Broadcasting

日本大百科全書(ニッポニカ) 「モバイル放送」の意味・わかりやすい解説

モバイル放送
もばいるほうそう
Mobile Broadcasting

戸外や時速100キロメートル以上で高速移動中の車内でも楽しめる衛星放送サービス。日本では2.6ギガヘルツ帯(2.630~2.655ギガヘルツ)により映像、音声のほかデータが車載型や携帯型の電話、テレビ、ラジオ、情報処理端末(PDA)により受けられる。

 現行のモバイル放送システムでは各放送番組は、まず放送センターからまとめて変調してKuバンド(13ギガヘルツの周波数帯)で放送衛星に送られる。次いで、衛星内でSバンド(2.6ギガヘルツの周波数帯)に周波数変換され、出力1.2キロワットに電力増幅された後、高速移動体内の小形アンテナでも安定した信号が得られるように12メートル径の大形アンテナにより地上に送信される。放送衛星からの電波の影になるビル陰などの地域には、混信を避けるために別に衛星からKuバンドで送られた信号を、影をカバーできる位置に設けた再生中継器でSバンドに変換増幅し、全国同一周波数での受信を可能にしている。電波環境の悪い都市内では、ビル壁でばらばらにされた電波信号をかき集めて合成するレーク熊手回路と移動時の受信信号の瞬断を回避・つなぎ合わせるインターリーブ方式を用いて安定した受信を可能にしている。

 東芝がモバイル放送に着目、一部出資して1998年(平成10)にモバイル放送(株)を設立。同社は2004年3月に東経144度の静止軌道に放送衛星MBSATを打ち上げ、同年10月からサービスを開始した。現在、ニュース&スポーツやエンターテインメントなどの映像8チャネルヒットチャートやナツメロなどの音声30チャネル、天気予報やビジネスなどのデータ60コンテンツのサービス「モバHO!」を行っている。さらには、携帯電話などの通信システム、全地球測位システム(GPS)、高度道路交通システム(ITS)などとの融合が期待されている。

 映像を含めたモバイル放送は日本が世界初の試みで、今回のモバイル放送衛星には韓国のモバイル放送用の中継器を搭載している。韓国では、日本のそれと同じ周波数帯を利用するために偏波方式を変え、混信を避ける方式が計画されている。アメリカでは2社のみが音声だけのモバイル放送を実施、各約120チャネルを提供している。

[岩田倫典]

『西正著『モバイル放送の挑戦――ニューメディアの誕生』(2004・インターフィールド、星雲社発売)』『デジタル放送研究会編『図解 デジタル放送の技術とサービス』(2006・技術評論社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

知恵蔵 「モバイル放送」の解説

モバイル放送

屋外や電車・自動車での移動中に多チャンネルのデジタル放送が楽しめる、日本初のモバイル端末向け衛星放送サービス会社。2004年10月から放送を始めた。地上デジタル放送の1セグ放送とは別のもので専用端末が必要。会社は1998年5月、東芝やトヨタ自動車が出資して設立された。その後、韓国の携帯電話会社であるSKテレコムなども株主に加わった。衛星放送なので、日本全国で同じ番組を視聴できるのが特徴だが、ビル陰や山間部、トンネルなどで受信できない恐れがある。そこで、地上のビルの屋上などで受信した電波を再送信するギャップフィラーという仕組みが用意されている。

(隈元信一 朝日新聞記者 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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