割竹や細い鉄棒の先端を鉤形に曲げ,これを熊の手のように扇形に結わえ竹などの柄をつけた用具。《百姓伝記》では性のよい竹を人差指ほどに太く削り長さ1尺3,4寸ほどにして先を曲げ,間2寸ほどに6本も8本も並べて編んで作るとある。また《農具便利論》では熊手の効用として,ごもく(芥)を搔き起こすのを主に,ナスやつる物の類の根を搔きあさり,土を和らげ,肥やしを入れ,水を引くのにちょうほうなものとある。熊手は掃除用具ばかりでなく,農具としてもまた武器,縁起物としても使われた。《平治物語》や《源平盛衰記》には水陸の戦に鉄製の熊手が用いられたことが見える。11月の酉(とり)の市で縁起物として熊手が売られる風習はすでに江戸時代にも見られるが,当時は遊女屋,茶屋,料理屋,船宿,芝居にかかわる商売の人たちがこれを買い,一般の人たちが熊手を買う風習はなかった。熊手がものを搔きよせる用具であるところから,幸運を搔きよせる縁起に結びつけたものであるが,《高砂(たかさご)》の尉(じよう)と姥(うば)が,箒と熊手を持っており,本来は魂を搔きよせるというような神につながる意味を持っていたものと考えられる。酉の市の熊手に幸運にかかわりのある小物類をたくさんつけて縁起をかつぐ習俗には,正月15日に小判や臼形の餅を木の枝に刺し豊作を予祝する農家の繭玉(まゆだま)の行事にも連なる観念をみることができる。熊手はまた〈熊手性〉などと欲深い性質の比喩にも用いられる。
執筆者:大島 暁雄
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山で冬季に肥料・燃料用の落ち葉をかき集めたり、収穫した穀物を天日で干すのに莚(むしろ)の上に広げたり、清掃に使う竹製の道具。縁起物にもなっている。割り竹の先端を鉤(かぎ)形に曲げ、それを十数本細縄で編んで竹の柄(え)をつけたものであるが、用途によって割り竹の太さと編む間隔が異なっている。縁起物の熊手は、正月の初詣(はつもう)でや節分にその模型が授与されたり、東京・浅草の鷲(おおとり)神社などの11月の酉(とり)の市に、桝(ます)やおかめの面を熊手につけ、福徳をかき集めるということで売られるのが有名である。西日本では熊手をこくばかき、こくまかきなどというが、こくば、こくまは松葉のことで、これが熊手の語源と考えられる。古くは武具としての鉄製の熊手もあった。
[小川直之]
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…この宝船にはよく近世の流行神(はやりがみ)の典型である七福神をのせているが,それは幸は海上の彼方からやってくるという海上他界の観念に基づくものである。11月酉(とり)の日,東京の鷲(おおとり)神社の酉の市で売られる熊手は,穀物をかき寄せるものであるが,穀霊を人間の霊魂と一体化して考え,霊(たま)をかき寄せ人間の再生をもたらし幸運を得る縁起物とされたのである。【岩井 宏実】。…
…熊手,田熊手などとも呼ばれる。備中ぐわの柄を短くしたような水田の中耕用農具。…
…ヒグマは秋に穀果を多くとって肥え,手掌にみつなどの食物を塗り,冬眠中にこれをなめるなどといわれるが,料理に利用されるのは皮下脂肪だけである。東京など各地の〈酉(とり)の市〉が扱う熊手は,落葉などをかき集める竹製の道具の模型を飾りたてたもので,1年間の福をかき集め繁盛を願う室内装飾品だが,もとは鉄のつめをもつ武器だった。マルファン症候群の患者などに〈蜘蛛(くも)指〉という指の長い手を見るが,指を蜘蛛の長脚にたとえた名称である。…
…この祭りを〈酉のまち〉〈おとりさま〉などともいう。露店で縁起物の熊手などが売り出されることで有名。鷲神社は武運長久の神として武士にも信じられたが,庶民の間では商売繁昌・開運の神として信仰されてきた。…
※「熊手」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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