日本大百科全書(ニッポニカ) 「モレノ」の意味・わかりやすい解説
モレノ
もれの
Jacob Levy Moreno
(1889―1974)
ルーマニア生まれのアメリカの精神科医で、サイコドラマ(心理劇)の創始者。ブクレシュティ(ブカレスト)に生まれる。文学、演劇などに関心をもっていたが、1917年ウィーン大学で医学の学位をとる。その間フロイトの講義に出席するが、フロイトのように夢を分析的に解釈するのでなく、夢を舞台の上で行為的に再現する手段として筋書きのない自発的な即興劇を試みた。これがのちにサイコドラマとよばれるものとなる。1925年アメリカに渡り開業。主著『誰(だれ)が生き残るか』(1934)は、ソシオメトリーsociometryとよばれる人間関係の測定法を具体化したものであり、心理劇を構成していく背景をなしている。この研究法は心理学、社会学などで広く応用され、彼の創刊した雑誌『ソシオメトリー』はアメリカ社会学会によって引き継がれている。サイコドラマでもっとも一般化した技術はロール・プレイングrole-playingであるが、これは彼の役割理論、自発性理論に基づいている。コロンビア大学でポストを得たこともあるが、新しい人間表現の形式を生み出すために苦闘したボヘミアンで、独自の道を歩いた人であった。
[外林大作・川幡政道]
『ルネ・F・マリノー著、増野肇・増野信子訳『神を演じつづけた男――心理劇の父モレノの生涯とその時代』(1995・白揚社)』