日本大百科全書(ニッポニカ) 「ロール・プレイング」の意味・わかりやすい解説
ロール・プレイング
ろーるぷれいんぐ
role-playing
役割演技ともいう。モレノの心理劇(サイコドラマ)では、社会的に期待される役割をそのまま実行することをロール・テイキングとよぶのに対し、役割を自発的・創造的に演ずることをロール・プレイングとよぶ。子供の「ごっこ遊び」は典型的な自発的ロール・プレイングであり、だれかによって指導・監督されているわけではないが、治療的あるいは訓練的な目的をもった演技としてのロール・プレイングは監督によって指導される。どんな役割を演技するかは監督によって決定されるが、治療的ロール・プレイングでは自発的に役割が選択されることが望ましいとされる。ロール・プレイングを技法として生かすも殺すも監督の力量にかかっている。これは精神分析的治療において、治療の成否が分析家の分析・解釈の力量に依存するのと同じである。
ロール・プレイングは、監督、主役、補助自我、観客、舞台の五つの要素からなっている。監督が習熟すべきロール・プレイングの代表的な技法は、役割交代法と補助自我法である。役割交代法は、主役が相手役を、相手役だった者が主役を演じ、役割を相互に交代するものである。補助自我法は、主役が主役の役割を演じようとしても、その役割を十分に演じることができず、なんらかの困難をもつとき、主役が役割を演じやすいように相手役が支え援助するもので、この役割を果たす人物を補助自我という。補助自我は心理劇的方法に習熟した者でなければならないし、監督の分身としての役割を果たさなければならない。演技を見ている観客は、演者と同一視することで自らの葛藤(かっとう)を解決しうるという意味で、集団心理療法として利用される。人間存在が役割関係に規定されたものであることを理解し、そこから生ずる役割葛藤を解決しようとするのみならず、役割の創造的発達を企図しているところにロール・プレイングの特色がある。
[外林大作・川幡政道]
『千葉ロール・プレイング研究会著、外林大作監修『教育の現場におけるロール・プレイングの手引』(1981・誠信書房)』▽『外林大作著『賞罰をこえて――ロール・プレイングのテクニック』(1984・ブレーン出版)』▽『台利夫著『ロールプレイング』新訂版(2003・日本文化科学社)』▽『川幡政道著『ロール・プレイング――即興劇による人間の探究と治療』(2008・春風社)』