サイコドラマ(読み)さいこどらま(英語表記)psychodrama

翻訳|psychodrama

日本大百科全書(ニッポニカ) 「サイコドラマ」の意味・わかりやすい解説

サイコドラマ
さいこどらま
psychodrama

心理劇のこと。ルーマニア生まれ(のちアメリカ籍)の精神科医モレノによって創案された集団心理療法であり、グループ・セラピー集団療法)の先駆をなしている。一般に演劇観客カタルシスを経験させるものであり、これが心理的効果をもつことは古くから知られているが、サイコドラマはこの効果を積極的に治療法として利用しようとするものである。サイコドラマは形式的には主役患者)、補助自我、観客、監督、舞台の五つの要素によって成り立つものである。患者は劇の主役となり、補助自我の助けを借りて自らの問題・葛藤(かっとう)を即興劇として演じる。観客はただの観客でなく、患者を支えると同時に客観的に舞台を見る社会を代表する。また主役を演ずる患者と同一視することで観客は患者の立場にも置かれる。この観客と患者の橋渡しをし、患者の演じる劇が観客の問題と通底していることを解釈するのは監督の役目である。患者が即興的に表現する心理的葛藤は、モレノによれば、性的、社会・文化的に規定された役割の葛藤である。つまり、固定した役割観念にとらわれ、現実の対人関係のなかで要請されている役割を発見することができないことによるとみなされる。こうした心理的葛藤を明確にし、自発的に解決するためにさまざまな心理劇的方法が考案されている。たとえば役割交代法(ロール・リバーサル)、鏡映法(ミラー)、二重自我法(ダブルエゴ)などの技法である。

 患者自身は自分の固定した役割概念を自分から明らかにすることが困難であるから、たとえば、患者自身を代理する補助自我を登場させ、患者は補助自我が演じる自分自身に対面することによって自分の真の役割を発見していくような方法がとられたりする。こうした方法を貫くものは、舞台の上で即興的に、いまここで演じられていることを具体的に取り上げて問題として考えていこうとする態度である。これは心理治療の根幹をなすもので、精神分析の治療が転移、すなわち過去の人間関係をいまここの分析状況において再演することを中心にして行われるのと同じことである。ロール・プレイングとよばれる方法は、心理劇のうちでもっとも一般化したものである。

[外林大作・川幡政道]

『外林大作著『心理劇』(1954・光風出版)』『松村康平著『心理劇――対人関係の変革』(1961・誠信書房)』『ポール・ホームズ著、台利夫・小川俊樹・島谷まき子訳『心の世界と現実の世界の出会い――サイコドラマと対象関係論』(1995・ブレーン出版)』『ピーター・フェリックス・ケラーマン著、増野肇・増野信子訳『精神療法としてのサイコドラマ』(1998・金剛出版)』『ジョナサン・フォックス編著、磯田雄二郎監訳、横山太範・磯田雄二郎訳『エッセンシャル・モレノ――自発性、サイコドラマ、そして集団精神療法へ』(2000・金剛出版)』『イレーン・イラー・ゴールドマン、デルシー・シュラム・モリソン著、高良聖監訳『サイコドラマ――その体験と過程』(2003・金剛出版)』『J・L・モレノ著、増野肇監訳『サイコドラマ――集団精神療法とアクションメソッドの原点』(2006・白揚社)』

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