翻訳|psychodrama
即興劇の形式を用いた集団精神療法の一つ。精神科医モレノが創始したもので,サイコドラマともいう。モレノはウィーンで医学を修めたのち,新しい演劇形式に関心をもち,新聞のニュースをその場で即興的に演じる劇団をもった。その劇団の一女優の家庭内での攻撃的問題行動の相談を受けた彼は,清純な乙女役の彼女にそれまでと異なった悪女役を演じ続けさせることで家庭内の攻撃性を解消させ,これが心理劇の治療的側面の発見となった。第2次世界大戦を前にアメリカに移住した彼は,ニューヨークのビーコンに心理劇の舞台を作り,多くの心理劇療法家を育てた。
監督と呼ばれる治療者の指導のもとで,主役は,舞台という安全で自由な仮の世界の中で自分の課題を表現し,危機を克服する。それを通して,気づかなかった自分の一面を発見し,新しい役割や生き方を身につけるようになる。他の患者や他の治療者がこの仮の世界でさまざまな相手役を演じながら主役を助ける。彼らは主役の自我の一部を補うという意味で補助自我と呼ばれる。ドラマを見る観客は受容や共感を表明しこれを助ける。心理劇の効果は,自己の課題を表現することによるカタルシス,新しい自分の発見,危機を克服する力としての創造的な自発性を育てること,〈テレtele〉と呼ばれる深い人間交流を体験することである。モレノは,人生における最初の補助自我は母親だと述べている。この療法のおもな対象は神経症や心身症であるが,日本では精神病院で統合失調症を対象とすることが多い。教育関係では早くから紹介され,役割訓練としての〈ロール・プレーイングrole playing〉が普及している。ほかに,社会的テーマを扱う〈ソシオドラマsociodrama〉,パントマイムによる〈サイコマイムpsychomime〉などの技法がある。
→精神療法
執筆者:増野 肇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…とくに精神科の疾患がその対象となり,今日ではほとんどの精神病院で盛んに行われている。芸術のジャンルに合わせて,人物や風景を描かせる絵画療法,作曲・合唱・鑑賞をさせる音楽療法,俳句や詩文を作らせる詩歌療法,ドラマを演じさせる心理劇,音楽に合わせて踊らせる舞踊療法などに分かれるが,治療の主眼はむろん優れた芸術作品を作り出すことにあるのではなく,さまざまの表現活動や創造体験を通して自己の内面を吐露し,洞察し,変容させていく過程にある。 芸術療法の起源はきわめて古く,アリストテレスが悲劇の効用としてカタルシスを説いた古代ギリシアにさかのぼり,当時〈音楽の処方〉として竪琴が用いられた記録もある。…
※「心理劇」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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