ヤドリバエ(読み)やどりばえ(その他表記)tachina flies

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤドリバエ」の意味・わかりやすい解説

ヤドリバエ
やどりばえ / 寄生蠅
tachina flies
tachinid flies

昆虫双翅(そうし)目短角亜目ハエ群ヤドリバエ科Tachinidaeの総称寄生バエともいい、とくに大形で剛毛が目だつ種類をハリバエとよぶことがある。全世界に約5000種、日本に約500種が記録されているが、研究が進めば大幅に増えることが推測される。広義には、タンカクヤドリバエ科、アシナガヤドリバエ科、クロバエ科ニクバエ科、ヒラタハナバエ科、ウシバエ科、ウマバエ科、ヒツジバエ科などの寄生性のハエ類を含めヤドリバエ上科Tachinoideaとして分類される。

 ヤドリバエ科のハエは、小形ないし大形で、体形と色彩は変化に富み、細いものや太いもの、黒っぽいものや褐色のもの、また金属光沢のあるものなどがある。体には一般に剛毛が発達する。触角複眼の中央部よりも上位に生じ、触角刺毛は無毛、まれに微毛を生じる。胸部の翅毛は通常、横線より前方にも発達し、肩後剛毛は少なくとも2本、横線後方の翅内剛毛は少なくとも3本存在する。はねの中脈は末端近くで著しく前方へ湾曲し、はねの基部後方の胸弁はよく発達する。成虫は日中活発に活動し、多く花に集まる。まれに夜間に活動するものもある。幼虫はほかの昆虫の体内に寄生する。宿主は鱗翅(りんし)類(チョウ、ガ)の幼虫が多いが、甲虫類、直翅類、膜翅類、半翅類、ハサミムシ類のほか、同類である双翅類にも寄生する。このため、農林業害虫天敵として重要な昆虫類といえる。

 たとえば、ブランコヤドリバエは、北海道、本州に分布し、ブランコケムシアメリカシロヒトリなどの幼虫(ケムシ)に寄生する。

 カイコノウジバエは、日本全国および中国、インドに分布し、幼虫は蠁蛆(きょうそ)とよばれるカイコの寄生虫で、養蚕害虫として著名。

[伊藤修四郎]


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改訂新版 世界大百科事典 「ヤドリバエ」の意味・わかりやすい解説

ヤドリバエ (寄生蠅)

双翅目ヤドリバエ科Tachinidaeに属する小~中型の昆虫の総称。寄生(きせい)バエともいう。ニクバエ科やクロバエ科のハエに近縁であるが,外部形態の違いのほかに,幼虫が主として他の昆虫の内部寄生者で,成虫も腐食物などには集まらず,花のみつやアブラムシ類の出す甘露(かんろ)をなめて生活する点で異なっている。全世界から7000種ほどが知られているが,実際にはまだ数多くの種が未記載で残されており,双翅目中では最大の種類数をもつ科であろうといわれている。日本からはカイコノウジバエ,ブランコヤドリバエなど約500種が記録されているが,研究が進めばその数は倍近くになるものと予想される。

 水生以外のさまざまな昆虫に寄生することが知られているが,鱗翅目の幼虫,甲虫目や半翅目の成虫や幼虫が寄主の大部分を占めている。同じ寄生性のハチと違って産卵管をもたないため,カイコノウジバエのように寄主が食べる植物に微小卵を産みつけ,植物とともに卵をのみこませるものや,1齢幼虫(うじ)を産み出し,そのうじが産み出された場所にとどまって寄主の通りかかるのを待つもの,うじが寄主を探して歩きまわるものなど,寄生習性には変化が多い。また,雌の腹部末端数節が産卵管状に変化するものなど,形態的にも多様である。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヤドリバエ」の意味・わかりやすい解説

ヤドリバエ
Tachinidae; tachinid fly

双翅目ヤドリバエ科に属する昆虫の総称。小型ないし大型のハエで,体は短太または細長い。頭部は大きく,触角は複眼の中央より上部から生じる。翅には大きな膜弁がある。腹部に顕著な剛毛列があることから,俗にハリバエとも呼ばれている。成虫は花に集るものが多く,美しい色彩をもつものも少くない。卵生または卵胎生で,幼虫は他の昆虫体内に寄生するが,特に鱗翅類の幼虫と蛹に寄生するものが多い。世界で約 8500種が知られている。

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百科事典マイペディア 「ヤドリバエ」の意味・わかりやすい解説

ヤドリバエ

双翅(そうし)目ヤドリバエ科およびその近縁の数科に属する昆虫の総称。寄生バエとも。ときにはニクバエ科の一部の寄生性の種類をも含めることがある。大型で全体に剛毛があり,暗色の種類が多い。幼虫は他の昆虫類,特に鱗翅(りんし)目,甲虫目,セミ類などの幼虫や蛹(さなぎ),ときに成虫の体内に寄生し,老熟すると寄主の皮膚を破って体外に出,土中に潜入するかまたは寄主の繭の中で蛹化(ようか)する。害虫の天敵として農林業上重視されるが,蚕に寄生するカイコノウジバエなどは害虫。

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