昆虫綱の1目。昆虫類の中で,もっとも大きい群で,しかも,生活様式がもっとも変化に富んでいる群でもある。ハチとアリの仲間。現在世界に12万種以上の種が知られている。体長0.2mmの小さなものから,50mmに達するものまであるが,原則的には,膜質の2対の翅をもち,前翅は後翅より大きく,小さなかぎで互いに連結できる。なかには,繁殖時期に雌雄とも翅をもつものや,雄だけ翅をもち,雌は翅のないものもある。口器はかむようになっているが,ときにはなめたり,吸ったりするように変化しているものもある。腹部は,キバチ類やハバチ類を除き,根もとで細くくびれているが,実際は腹部第1節が胸部の最後端に癒着し,前伸腹節を形成している。雌の産卵管は,植物組織に傷をつけやすいのこぎり状に変形したり,敵や獲物を刺すのに適した形になっている。完全変態を行う。多くは単独生活を営むが,アリ,スズメバチ,アシナガバチ,ミツバチなどのように社会生活を営むものもある。繁殖は,主として有性生殖であるが,処女生殖で雌だけを産むものや雄だけを産むもの,多胚生殖をするものなどがある。成虫は,主として日中に活動するが,ときに夜間や薄暮のころに活動するものもある。
膜翅類は,人間の生活と関係深いものが多い。ハバチ類やキバチ類は,植物の葉や茎,または材を食害するため,農林業や園芸上,害虫とされるものが多いが,逆に雑草防除に利用されている場合もある。ヒメバチ類,コマユバチ類,コバチ類,タマゴバチ類は,ほとんど全部が他の昆虫に寄生するもので,ニカメイガに寄生するメイチュウサムライコマユバチや,ルビーロウムシに寄生するルビーアカヤドリコバチのように,害虫防除に著しい働きをしているものもあり,害虫の生物的防除に利用されているものが多い。タマバチ類は,卵を植物体に産み,虫こぶをつくる害虫で,クリタマバチはその代表的なものである。アリ類は多くの害虫を含んでいる。ウンカやヨコバイに寄生するカマバチ類(アリガタバチ上科),コガネムシ類の幼虫に寄生するツチバチやコツチバチ(ツチバチ上科)の類,鱗翅目幼虫を狩るトックリバチやドロバチ類(スズメバチ上科)などは,天敵としての利用が考えられており,ドロバチ類については,人工巣を用いての利用が行われつつある。ミツバチ上科に属するハチ類は,花粉媒介昆虫としてもっとも重要な群であるが,野生ハナバチ類の営巣地は,家屋の改築や舗装などにより失われていくため,マメコバチなどの筒利用者に対しては,人工の営巣基を与えてその増殖をはかっている。スズメバチ上科のハチは,鱗翅目昆虫やその他の昆虫をとらえ,幼虫の餌として巣に運ぶ有用昆虫であるが,人畜害虫としても恐れられている。ジガバチ上科のハチ類の生活様式やとらえる獲物は千差万別で,興味深い1群である。また,ミツバチの集めたはちみつや蜜蠟(みつろう)は,人間が利用しており,クロスズメバチの幼虫などは食用に供されている。
執筆者:富樫 一次
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
昆虫綱の一目Hymenopteraで、甲虫類(鞘翅(しょうし)類)に次いで種類の多い一群。ハチとアリの仲間で、世界中で10万種以上が知られているが、微小な寄生バチ類(体長0.5~1.5ミリ)の分類がさらに進めば、生物界最大の群になると推定されている。
形態的には頭、胸、腹部の区別がきわめて明瞭(めいりょう)で、二対の膜質のはねはよく発達し、後翅はつねに前翅より小さい。翅脈は退化的で、ときに無翅のハチ(雌に多い)もいる。高等なハチ、たとえばミツバチなどは生物界で最高の機能をもつ飛行家である。口器はかむ型で、これに吸う機能を加えた型(ハナバチ類)もある。雌の産卵管はハバチ類では鋸(のこぎり)式となって植物組織を切り開き、寄生バチ類ではドリルとなって穿孔(せんこう)し、狩りバチや花バチでは刺針となって獲物の麻酔、攻撃と防御などに用いられる(雄バチは刺さない)。
次の二亜目に分類され、原則的に広腰亜目(ハバチ、キバチほか。幼虫は有脚)は植物食性、細腰亜目(ヒメバチ、アリ、スズメバチほか。幼虫は無脚)は動物食性である。ただし、ハナバチ類は先祖返りをして植物(花粉・花蜜(かみつ))食性となった。細腰亜目は広腰亜目とは違って腹部第一筋が胸部に融合するとともに、胸部と腹部の間(実は腹部第二節の基部)が強くくびれている。これによって腹部の運動性を獲得し、腹端の刺針を自在に使用することができるようになった。
食性と生態も実に多様で、針葉樹の材中に穿孔侵入するキバチ、葉を食害するハバチ、植物体に虫こぶをつくるタマバチ、ほかの昆虫の卵、幼虫、蛹(さなぎ)、まれに成虫に寄生してこれを食い殺すヤドリバチ類(寄生バチ)にヒメバチ、コマユバチ、コバチ、ツチバチほかがあり、このなかには二次寄生、三次寄生をするものもある。ガの幼虫などを狩って蓄え自分の子の食餌(しょくじ)とする狩りバチ(ドロバチ、スズメバチ、ジガバチほか)、訪花して花粉や花蜜を採取・運搬して子を養うハナバチ類(花バチ)など、生活様式・習性と本能の進化は目を見張るものがある。多くのハチはみごとな巣をつくり、アリの全部、スズメバチ科の一部、ミツバチ科の大半は高度な社会生活を送る。
発生は完全変態で、蛹は繭に収まるものも多い。繁殖は有性生殖で、雌雄は異型。クリタマバチなどは雌ばかりで繁殖(単為生殖)し、ほかのタマバチのある種は世代交代をし、トビコバチには多胚(たはい)生殖をするものもある。ハチでは産み落とされた卵はつねに発生し、受精卵は雌バチ(ミツバチでは女王バチと働きバチ)に、不受精卵は雄バチになる。
ハチと人間生活との関係はとくに深く、一部の農林害虫や衛生害虫を除けば大半が益虫で、花粉の媒介や害虫の駆除に役だつ。養蜂(ようほう)業は世界各地で盛んに行われている。日本ではリンゴの花粉媒介にマメコバチ(ハキリバチ科)が利用されている。害虫を倒す寄生バチのなかには生物農薬として利用されているものもある。人を刺すのでときに恐れられるミツバチは、リウマチの治療に用いられている。
[平嶋義宏]
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