改訂新版 世界大百科事典 「アメリカシロヒトリ」の意味・わかりやすい解説
アメリカシロヒトリ
Hyphantria cunea
鱗翅目ヒトリガ科の昆虫。体翅とも純白のガで,前翅に黒紋を連ねることが多い。開張4cm内外。原産地は北アメリカ大陸だが,第2次世界大戦後,アメリカ占領軍の軍需物資とともに1945年ころに京浜地帯に移入され,幼虫が街路樹や庭木について繁殖し,急速に分布を拡大していった。現在では東北地方南部から四国,九州の北部にまで定着している。幼虫は多食性で,サクラ,バラ,クワなど100種以上の樹木に寄生する。5月ころ羽化した雌は葉裏に300~800個の卵を産む。幼虫は3齢になるまでクモの巣のような糸を張って集団生活をし,4齢以降は分散して葉を食べる。春の成虫の子孫は7~8月に羽化し,産卵する。そこで夏に孵化(ふか)した幼虫は,夏の終りころに樹皮の割れ目や近くの壁面などに付着して蛹化(ようか)し,そのまま休眠して越冬する。夜行性でよく灯火に飛来するが,雄は夜明けころに飛び回り,雌が出すフェロモンにひかれ,雌を求める配偶行動を1時間くらい行う。日本に侵入したアメリカシロヒトリは2化性なので,幼虫の発育とさなぎの休眠に必要な気象条件から,東北地方南部より北では,幼虫が十分に発育して蛹化する前に寒さがやってきてだめだし,四国や九州の南部より南では,冬季の温度が高すぎてさなぎが休眠することができないために,生活環を全うすることができない。日本ではかつては大発生し,街路樹や庭木などに大被害を与え社会問題にまでなったが,現在では生態系の中に組み込まれたようで,以前のような大被害は少なくなっている。日本と同様に第2次大戦中1940年ころにヨーロッパに,韓国には57年に侵入し,それぞれ定着している。
執筆者:井上 寛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報