ヤーコブソン(読み)やーこぶそん(その他表記)Роман Осипович Якобсон/Roman Osipovich Yakobson

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤーコブソン」の意味・わかりやすい解説

ヤーコブソン
やーこぶそん
Роман Осипович Якобсон/Roman Osipovich Yakobson
(1896―1982)

言語学者。モスクワに生まれ、アメリカ、ケンブリッジに没す。ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学教授。幼少のころより諺(ことわざ)の分析に興味を示し、音形と意味の相互作用がもっとも顕著に表れる詩の分析に生涯関心をもち、詩学の分野で多くの業績を残した。また「我は言語学者なり、言語に関するものにして我に無縁のものなしとす」をモットーに、音韻(おんいん)論をはじめ、一般言語学、スラブ言語学、比較韻律学、言語病理学、記号論などの分野で、鋭い洞察力、卓抜なアイデア、そして無類の博覧強記に支えられた多彩な業績を残した。1920年チェコプラハへ移住。1926年マテジウスVilém Mathesius(1882―1945)らとプラハ言語学サークルを創設。N・S・トゥルベツコイとともにプラハ学派の代表的存在として構造主義音韻論を確立。音素を弁別特徴の束ととらえる考え方を発展させるとともに、音変化の体系的考察、目的論的考え方を通して言語研究の方法論に貢献した。1939年ドイツ軍の侵攻直前にチェコを離れ、デンマークスウェーデンを経て1941年アメリカに亡命。この間『幼児言語失語症および一般音法則』を発表。渡米後は、情報理論、C・S・パースの記号論などを自己のものとしつつ、詩的機能を含めた言語の諸機能のモデル、音韻論における有標・無標の概念をみごとに適用した文法的意味の研究などを発表。とくに『音声分析序説』(共著)は、世界の諸言語の音韻組織を音響・聴覚的観点から記述する普遍的枠組みとして爾後(じご)の研究の出発点となった。1967年(昭和42)来日、一連の講義を通じて日本の学界に影響を与えた。

[長嶋善郎 2018年8月21日]

『服部四郎・川本茂雄責任編集『ローマン・ヤーコブソン選集』全3巻(1978~1986・大修館書店)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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