日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヨーロッパ投資計画」の意味・わかりやすい解説
ヨーロッパ投資計画
よーろっぱとうしけいかく
Investment Plan for Europe
ヨーロッパ経済を活性化するため2015年から3年間で3150億ユーロ(約43兆円)の域内投資を促すヨーロッパ連合(EU)主導の計画。欧州投資計画ともいう。ヨーロッパ委員会の委員長ユンケルJean-Claude Juncker(1954― )が2014年に提唱した構想であることからユンケル・プランJuncker Planとよばれるほか、略称のIPEでよばれることもある。ヨーロッパ投資計画は、EUとヨーロッパ投資銀行(EIB)が2015年に共同でヨーロッパ戦略投資基金(基金総額210億ユーロ)を設立し、これを中核に官民あわせて3150億ユーロの域内投資の実現を目ざす。ヨーロッパ戦略投資基金という公的投資が初期投資リスクを負うことで民間資金の呼び水となり、基金額の15倍の乗数効果のある投資を呼び込む計画である。投資対象はエネルギー、輸送、ブロードバンド網などの通信、教育、研究開発分野の整備のほか、雇用創出効果の大きい従業員3000人未満の中堅・中小企業など、効率のよい投資先を想定している。ヨーロッパ委員会とEIBがヨーロッパ各国と協力して設置した専門家委員会が有望な投資プロジェクトを選定する。
ヨーロッパ域内での投資はリーマン・ショックが起きた2008年以前に比べ、15~20%落ち込んでいる。しかし、債務危機が続くヨーロッパ各国には財政資金を活用した景気てこ入れの余裕がなくなっており、ヨーロッパ投資計画はEU主導で域内での官民投資を活発にしてヨーロッパ全体の経済成長率を底上げするねらいがある。ヨーロッパ委員会はヨーロッパ投資計画が実行されれば、EU全体の域内総生産(GDP)を3300億~4100億ユーロ押し上げ、最大で130万人の雇用創出効果があると見込んでいる。ただしヨーロッパ投資計画は公的基金の初期投資によるてこの原理(レバレッジ効果)に頼っており、域内の規制緩和や構造改革が進まないと、公的基金が民間投資を締め出すリスクがあるとして、ヨーロッパ金融界では計画に懐疑的な見方も出ている。
[矢野 武 2016年4月18日]